『人と関わるということ』安藤静香
「認知症の人でなくても人と関わるのは難しい」 これは、私が大学時代に老人デイサービスでの実習中に指導者から言われた言葉だ。 当時の私は認知症について、大学で一通りの勉強はしていた。しかし、実際に認知症の人と関わるのは […]
『祖母の赤ちゃん』本城浩志
四半世紀が過ぎてしまった。 当時90歳を超えた祖母が入院し、かなり状況が怪しくなってしまっていた頃、よく父と見舞いに行った。 私の顔を見ると、 「あんた誰!?」 と訊ねられた時には、ショックを通り過ぎて、逆に微笑ま […]
『はじめまして』あんのくるみ
「はじめまして」 祖母との挨拶は、いつもこの言葉から始まる。 「どなたかのお見舞い?」 「あなたのお見舞いですよ」 「まぁ、嬉しい。私たちお友だちだったかしら?」 しわしわの手を口の前に持っていき、大袈裟に驚いて見せる祖 […]
『忘れられない利用者さん』内藤寿美子
もうあれから、三年が経つ。今も、私の心の中に、住み続けている一人の人がいる。 私は、グループホームに勤務している。利用者さんは、女性ばかり九人。全員が認知症と診断を受けた人である。 私が勤務し始めた当初は、その中の […]
『諦めないで』井野友香
あなたの周りで認知症の症状や診断され、関わりが難しいなと感じた方いますか?? その方との関わりを諦らめていませんか?? 私は介護の仕事に就いたばかり時、認知症について研修で学んでから現場デビューしたものの、いざ現場で認知 […]
『95歳お爺さんの置き土産』山本美喜子
元気だった義父は95歳で突然逝った。 朝食後しばらくして、湯飲みを取ろうと立ち上がった瞬間倒れ込んだ。異変を感じた息子の腕に抱きかかえられ、大きく息を1回吸ってそのまま帰らぬ人になった。すぐに救急車で運ばれたが、それ […]
『あの頃のバス停で』ウダ・タマキ
「嫌よ、そんなん、恥ずかしい」 私は即答した。 「別に服装はそのままでええから。話だけうまく合わしてや。ばあちゃんのためやん、なっ、お願いや」 「・・・・・・考えとく」 そう言って私は電話を切った。 母さんに素っ気 […]
『ささやかな嘘』もりまりこ
6月になると、風の匂いに色濃く海の香りがまじってくる。 湿気の多い日は、とくにそうで。洗濯物は乾きにくいけれど、それでも夏が近づいていることだけは確かで。 ほったらかしの庭に泰山木がいくつかつぼみをつけては、梅雨の […]
『女同士の秘密』宮沢早紀
指定された喫茶店へ入り、兄の柊平を待つ。喫茶店なんて言葉を使うと「カフェだよ」と中学生になる娘に笑われそうだと夏子は思った。 柊平から電話があったのは先週末だった。「母さんのお金のことで話がある」と言われ、「ついに振 […]
『義母との8か月』二宮奈緒美
2009年1月義父が他界してから、週1・2回義母とスーパーへ買い物に行くようになりました。後に考えるとその頃から認知症が始まっていたのかもしれません。 ゆっくり何度も同じ場所を回っていたのは食品を吟味していると思ってい […]
『お風呂の出来事』とんてった
最近母のチグハグな行動が目立ってきた。先月運転免許証を自主返納してからはますます家を出なくなり、なんとか散歩に出そうとあれこれ誘い出したり、外出の代わりにせめて自宅で料理の手間をかけさせたりと気を使う事が多くなった。 そ […]
『目標は認知症バレエ団1期生』元永まさえ
若年性認知症である私の夢は「認知症バレエ団」に入団し、お稽古をし、舞台に立ち、お客さまと感動を共有することです。 「認知症バレエ団? そんなバレエ団あるの?」と皆さん思われることでしょう。 私も聞いたことはなかったのでま […]
『妖精さんと共に生きる父』NAO
実家には夕方になると妖精さんがやってきます。幼稚園~小学校低学年くらいの妖精さんのようですが、日によって訪れる人数は違うようです。妖精さんはひそひそ話をしたり、時に静かにそこに居続けるらしいのですが、夜遅くなっても帰ら […]
『上書きされた幸せ』yukari
高齢の認知症患者は、赤ちゃん返りをする。 九十六歳の祖母もまさしくそうであった。突然ぐずり出して暴れたり、私が来客と話していると嫉妬して物を投げつけてきたり、食事や着替えなど自力で出来る時でも(出来ない時もある)私に […]
『時空旅行ができる超能力』菅尾尚子
父が他界して5年が経つ。亡くなる前の数年間は認知症になった。まずは短期記憶、次に時間感覚が失われた。外出時にしかつけなかった腕時計を、家の中でも身に付けるようになった。きっと、朝なのか夕方なのかわからなくなることがあっ […]
『あら~、びっくりぽんや!」世界でたった一つしかない小さな物語』ランベール・ケイ
「あら~、びっくりぽんや!」 これは認知症が進んでいた祖母が排便コントロールが効かずに、初めて食卓の椅子の上で排便してしまったときの言葉だ。 この何ともポジティブな、愛らしい反応。この日を境に、私たちの中で何かが変わ […]
『ツルの恩返し』渡辺惠子
今から3年前のこと。我が家に突然警察から電話が掛かってきた。義母が散歩中に自分の家がわからなくなり、交番で保護されているという。 義母は、当時87歳。義父が亡くなってから15年間、隣町の夫の実家で、一人暮らしをしてい […]
『今は温泉』黒田由美
多くの人に助けられて、今、母は生きている。 75歳を過ぎた頃から、母に認知症の症状が出始めた。物忘れから始まり、日常生活のちょっとした段取りがわからなくなり、電化製品の使い方がわからなくなった。よく認知症の人は自分が認知 […]
『今日も私は初めまして』菜々硫邪
訪問介護をしていると認知症と向き合う機会が多かった。症状は人それぞれで、忘れることや、覚えていられないことが増えていく認知症とどう向き合うのか、毎日が勉強の日々でした。 私はドアを開けて、「初めまして」と大きな声で訪 […]
『忘れないもの』田中杏
「母さん、何度言ったら分かるんだい?」 父が祖母にため息交じりでこう言うのを、もう何度聞いただろう。 祖母と結婚してからずっと北海道に住んでいた祖母が、東京の私たち家族の家で暮らし始めてから一ヶ月程経つ。祖母が来たと […]
『おとぎばなしのような思い出』田崎雪子
私の両親はあまり子どもに興味のないひとたちだった。現代なら、子どものいない共稼ぎのDINKという結婚の形態も、十分認められているが、昔はそうではなかった。結婚したら、子どもを持つのが当たり前の時代。両親とも特に疑問を持 […]
『笑ってともに生きる認知症』平川佳代子
そもそも義父の認知症がひどくなったのはお隣が火事で全焼し、義父の家も延焼で住めなくなり、建て替えを余儀なくされてからだった。 お隣の火事の原因は高齢の方が車椅子で移動していて石油ストーブを倒したからだ。考えたら、 […]
『受け入れて笑顔』後藤いづみ
今から15年前の夏休みの終わり、祖父が倒れて救急搬送された。直ぐに病室に行くと祖父は意識がなく、顔色の悪さを目の当たりにして、私は死を覚悟してしまった。翌日、祖父の意識が戻り、一斉に家族が話し掛けると、祖父は怯えてしま […]
『お絵かきノートをひらくとき』廣田みのり
祖母が何だかおかしい。同じハサミをいくつも買ってきたり、一日に何度もスーパーに行こうとしたりする。子どもながらに、祖母の几帳面さを知っている。家にある食材や道具の管理は完璧にこなす、主婦の鑑のような人だ。そんな祖母の行 […]
『今の私にできること』ウダ・タマキ
縁側に置かれたロッキングチェアに座る妻の顔には、柔らかな陽射しがつくる葉影がゆっくりと揺れていた。 彼女はそこで何をするわけでもなく、ただ庭の草木を眺め、穏やかに流れる時をぼうっと過ごす。春の温かい風が白い髪を撫でよ […]
『フェイスシールドの向こう側~私にできること~』川島あゆみ
「先生、ちょっと診て!」 「なんですかー? 私は先生じゃなくって管理栄養士ですよー」 勤務先の施設で、朝礼後に交わすAさんとの会話は、ここ半年の恒例になっていた。Aさんは認知症のある高齢女性だ。簡単な意思疎通なら問題な […]
『いい子だね』太田ユミ子
もう、五十年以上も昔、友子が小学生だった頃、毎年、夏休みに奈良からお母さんの実家のある静岡に帰省した。実家にはおじさんとおばさん、五人のイトコたち、おばあさんが住んでいた。 実家は古い大きな木造の家で天上が高く、広々 […]
『ハナちゃんの散歩』社川荘太郎
ハナちゃんがまたいなくなった。 高校から帰ってすぐ、私は疲れた表情のお母さんにそう告げられた。 七十四歳のハナちゃんは私の祖母で、まだ五月なのに行方不明になるのは今年に入って三度目だった。 鞄を置いて、私はハナち […]
『おばあちゃんのように生きたい』板倉萌
私のおばあちゃんは97歳。私が産まれた時から一緒に暮らしてきた。今は近所の特別養護老人ホームに居る。 私の両親は教師で、朝早くから夕方遅くまで働いていた。でも、家にはおばあちゃんがいつもいてくれたから、幼い頃から寂し […]