SOMPO認知症エッセイコンテスト

『妖精さんと共に生きる父』NAO

 実家には夕方になると妖精さんがやってきます。幼稚園~小学校低学年くらいの妖精さんのようですが、日によって訪れる人数は違うようです。妖精さんはひそひそ話をしたり、時に静かにそこに居続けるらしいのですが、夜遅くなっても帰らない妖精さんのために、父は時に母に頼んで来客用の布団を出してもらったりしています。母はそんな父に付き合いながら、来客用の布団を出して妖精さんに早めにおやすみください、と言っています。そうすると父は安心して眠るらしいのです。

 父は、「レビー小体型認知症」を患っています。最初は手の震えなどからパーキンソン病と診断されていたのですが、テレビで見た「レビー小体型認知症」の症状がびっくりするくらい父の症状と同じであったため、医師にその事を伝えたところ、経過観察を経て最終的に上記の診断を受けました。
 レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症ほど世間に認知されていませんが、特徴的な症状として「実際には見えないものが見える(幻視)」、「歩行などの動作障害(パーキンソン症状)」、「大声での寝言や夜中の異常行動(レム睡眠行動障害)」があります。
 最初は、認知機能にはそれほど問題がなかった父ですが、80歳を超えて、少しずつ認知機能が衰えてきました。特に空間認知障害が少し出てきたようで、簡単に言えば、家を出て道に迷うことが出てきました。私が「迷ったときのために住所や電話番号を書いたカードケースを首から下げて外出すると安心だよ」と伝えたところ、自分でも自覚があるのか、「ぜひ、それが欲しい」とのことで、早速用意をしました。軽くてカッコイイ革製のIDホルダーに、住所・電話番号・名前を、それから「このカードを見た方は連絡を欲しい」旨を記載したカードを入れました。また、いざという時の為のタクシー代も入れて父にプレゼントしたところ、とても喜んでくれました。道を尋ねたくとも、病気のせいか言葉がスラスラと出てこない父にとって、カードを見せるだけで意思を伝えられることは、大きな安心につながったようです。そして、そのIDホルダーはプレゼントして1か月もしないうちに、有効利用されることになりました(笑)。

 父はまだ明るい夕方の時間に近所を散歩していたのですが、急に家の方角がわからなくなったそうです。困った父は、近くにあった幼稚園に救いを求め、幼稚園からすぐに家に連絡が入りました。母が急いで幼稚園に迎えに行くと、若い先生方に囲まれて、父はちょこんと座っていたそうです。母曰く、「若い幼稚園の先生に囲まれて、お父さんなんか嬉しそうだった・・・」とのこと。私は電話でその話を聞いて笑ってしまいました。そして父に「どうやって幼稚園の先生に話しかけたの?」と聞いたところ、父は電話口でしばらく黙ったのち、「このあたりの地理に不案内なもので・・・と言って首にかけていたカードを見せたんだよ・・・」と言っていました。なるほど、「迷った」のではなく「不案内」とは、良い言葉選びだな、と少し感心しました。

 多分、これからできないことが少しずつ増えるのだとは思いますが、元看護師の母、実家の近くに住む現役看護師の私の妹プラスリモートで私も加わり、父の介護にあたっていきます。合言葉は「1日1日を穏やかに。先の事は考えない」。
 看護する側の私たちも無理のないよう行政や地域の方の手を借りながら、1日1日、父の幸せを祈りながら頑張っていきたいと思います。