『ハイクラッシュデイズ』マオドダマル(『奥の細道』)
ツイート 古池や蛙飛び込む水の音:松尾芭蕉 PACHIN!と小気味よい音が鳴って、響いた。春ですねーって爺はもっともらしく顔面の複雑な皺模様をたわませる。音楽はデーモニッシュだとゲーテはいうんだよ。あれは至言だなぁ、 […]
『異次元の私刑』岩崎大(『猿蟹合戦』)
ツイート その猿顔の男は、誰からも嫌われていた。 とりわけ人々を不快にしたのは、その笑顔だった。心では笑っていない。かといって人を見下しているわけでも、卑屈なわけでもない。得体の知れぬ無味乾燥の笑顔は、それでも笑顔で […]
『母とパとブとポ』三日蘭(イタリア民話『悪魔と三人のむすめ』)
ツイート 或るところに、母と娘三人がいた。娘の名は上からそれぞれパ、プ、ポといった。 「お母さん、私、結婚するの、結婚するの」パが言った。 「結婚、するのです」プが言った。 「それは、結婚なのです。けっこん。けっこん」 […]
『海辺のボタン』もりまりこ(『月夜の浜辺』)
ツイート 路地裏の猫が歩いているようなアスファルトあたりに、行方を失ったものが落ちていたらとりあえず拾うだろう。たぶん、栞とチューヤはそういう種類の人間だと思う。 そのままコートのポケットのなかにすとんと入れてまた歩き […]
『あなたが猫だったとき、あたしは』もりまりこ(『猫とねずみのともぐらし』)
ツイート 白地に赤の水玉模様。水玉の大きさが少し虚を突かれるような分をわきまえているような、白地との相性が面白くて眺めていた。 みずたまははずかしい。なつかしくてはずかしい。 小学校の入学式で着ていた紺色にみずたま […]
『SFA‐20 ~立ち枯れた脳~』 蟻目柊司【「20」にまつわる物語】(『ピノッキオの冒険』)
ツイート 東京湾を廃棄物が埋め、また東京が広がっていく。 見渡す限りのゴミの山。カラスと監視用ドローンが空を飛び交い、自動制御されたAI搭載型重機と汎用アンドロイドが地を這っている。 東京湾第五防波堤埋立処分場。こ […]
『鬼の営業部長』金田モス【「20」にまつわる物語】(『桃太郎』)
ツイート 春うらら。草木が芽吹き、変態さんが小躍りするという季節。もとをたどれば大した根拠はないのだろうが、なぜかこの国の1年は春から始まる。たゆまなく永遠に続く間延びした日々をばっさりぶった切ることにより、また循環し […]
『桃太郎と桃子』斉藤高哉【「20」にまつわる物語】(『桃太郎』)
ツイート 1日目 なんとなく嫌な予感はしていた。いつになく畏まった担当の態度。いつもはエントランスのソファーで形式だけの現状確認で済ませるのに近くのドトールに呼ばれたこと。予兆はいくつもあった。だから覚悟はできて […]
『アリとキリギリスとニンゲン』高元朝歩【「20」にまつわる物語】(『 アリとキリギリス 』)
ツイート こんなところに、公園なんてあったんだ。 スーパーからの帰り道、家に帰りたくなくて遠回りをした私は、それまで存在に気がつかなかった公園で休憩をすることにした。 ふう、思わず漏れたため息。疲れた。眠りたい。 […]
『過ぎし日の想い』紫水晶【「20」にまつわる物語】
ツイート 重い足取りを少しでも軽くしようと、私は身体中の空気を一気に吐き出した。 私立夢ケ丘保育園ばら組。ここが、今の私の勤務先だ。 「先生おはようございます。皆さんおはようございます」 まるで録音された音源のよう […]
『しゅう末より』高橋己詩【「20」にまつわる物語】
ツイート 1999年7の月、天から恐怖の大王が下りてくる。 という予言があった。ノストラダムスの予言である。で、それは外れた。僕らは結局、1999年7の月に、恐怖の大王を目にしなかった。人類が滅亡すると解釈した人も、 […]
『あひるとたまご』或頁生【「20」にまつわる物語】
ツイート 「こらこら入ったら困りますがなっ」 控え目な丁寧語の叱責未満が鼓膜に到達から周囲を見渡し、その矛先が自分だとようやく気づき、苛立ち顔の年配者達の渋い表情に向かって黙って首を竦め、直線で囲まれた外側へ。 「門球 […]
『午前六時、二十インチマン』豊臣ヒデキチ【「20」にまつわる物語】
ツイート 午前六時。漸く空がいつも通りの顔になる頃。 朝だけは早い。 アラームはかけないけど、決まってこの時間に目が覚める。 寝間着から華麗に私服に着替える。 その姿はケツァールのように優雅だと言われている。 […]
『20時20分のこと』室市雅則【「20」にまつわる物語】
ツイート 十九時くらいにひと風呂浴び、テレビを眺めながら、ちびちびと酒を飲んで、簡単な飯を食って、二十一時過ぎに寝る。これがその男の生活リズム。この数カ月でいつの間にか出来上がっていた。日中だって特にやることはないから […]
『勝てない少年』鷹山孝洋【「20」にまつわる物語】
ツイート 水平線、なんてものを見飽きるのは、海岸沿いに住む人々だけではないらしい。 青い空、そして光を乱反射する海のような足元。たったそれだけがどこまでも際限なく伸びるその場所は、間違いなく無限の世界である。水平線を […]
『20 minutes.』西橋京佑【「20」にまつわる物語】
ツイート 臨時ニュースを知らせる独特の機械音が流れ始めたのは、ちょうど楽しみにしていた映画のオープニングが始まったタイミングだった。クローン化されて月面で永遠に働かされる、いかにも古き良きSFスペクタクルなその映画。僕 […]
『トゥエンティ・ミニッツ・トゥ・ミッドナイト』泉鈍【「20」にまつわる物語】
ツイート 二十分、父親と一緒に過ごして感じたことは、ぼくはもう父親にとって、異物でしかないのだという確信と胸の中心部を抉るような、鈍い痛みだった。ハーラン・エリスンの「鈍いナイフで」という名の短編小説を思い出す。あれの […]
『ハタチの覚醒』中杉誠志【「20」にまつわる物語】
ツイート 一九四〇年生まれのばあちゃんの人生は、年表にするとめちゃくちゃ覚えやすい。 一九四五年、五才で終戦を迎える。 一九六〇年に成人して、 一九七〇年に三十才で結婚。同年、わたしの父親を産む。 二〇〇〇年に […]
『20番目の女』籐子【「20」にまつわる物語】
ツイート 男が単純なら、女はバカだ。 結婚したから、私が1番目の女。 2番目でもいいからあなたのそばにいたい。 私は遊びたいから5番目の女でいいわ、なんて。 女は男からの順位を常に意識し、その男の反応に対して一 […]
『カウント・オン』木江恭&結城紫雄【「20」にまつわる物語】
「我々は秒や分で、SCAT患者の心臓は拍動数で時間を数える。それはある距離をマイルで数えるか歩数で数えるかという違いだ、それだけだ」――エーリック・シュナイダー 【指定難病保険に係る報告書第5版より抜粋】 (略) 20 […]
『拝啓、20歳の私へ』公乃まつり【「20」にまつわる物語】
ツイート 「今晩は、夕方のニュースです。今日は成人式、色とりどりの振り袖やスーツ姿の若者が新たな門出を喜び、大人としての自覚を新たにしました」 付けっ放しにしていたテレビは、いつの間にか再放送のドラマからニュースに切り […]
『あるふぁべっと』もりまりこ【「20」にまつわる物語】
ツイート 青と赤のニットの短いセーターを着た見知らぬ犬が、飼い主と散歩しながら、こっちばかりを振り返って見る。 リードの先にちがう形のエネルギーを感じた飼い主は立ち止まろうとしたその犬を、軽くたしなめる。 目が合う […]
『魔鏡譚』蟻目柊司(『ドリアン・グレイの肖像』オスカー・ワイルド)
ツイート 老人は全てを信じる。 中年は全てを疑う。 青年は全てを知っている。 (オスカー・ワイルド) 気がつくと独りで飲んでいた。 薄汚れたバーの一番奥の席。私はそこにいた。 一体いつから […]
『デイドリームアフター』柘榴木昴(『ワーズワース詩集『水仙』『ルーシー・ポエム』)
ツイート 「幸福っていうのはここにいることを言うんだ。ここにいてもいいんだって感じられることを言うんだ。もっというと、そこにいる事をわすれてしまうような毎日のことを。 だから、思い返してもそういう場所がない人は不幸なの […]
『盗人と天女』多田宏(『竹取物語』『羽衣伝説』)
ツイート 一 京に都が移って百年ほど経った頃、奈良の生駒(いこま)の山中に助左(すけざ)という猟師がいた。だが、助左の正体は「ましら」と言う二つ名を持つ盗人(ぬすっと)である。今年二十七になるが、五年ほど […]
『解放』椎名(『故郷』)
ツイート 友達が国語の宿題を忘れたペナルティで、漢字の書き取りを二万字書くことになった。俺は、そいつが書き終わるまで待っていてあげた。 「あー、もやだ。なんであの国語教師はこんなに意味のない課題を出すんだ。もう嫌になっ […]
『蜘蛛の祈り』川波静香(『蜘蛛の糸』)
ツイート ある雨上がりの朝のことだった。蜘蛛は目を醒ますと青く澄みきった空を見上げて大きなため息をついた。 今日の空の色は、まだ自分が極楽にいたころいつも見ていたあの空と、どこか似ているな――。 蜘蛛が地上に降りて […]
『登る月』和織(『Kの昇天』梶井基次郎)
ツイート 一見、それは相乗効果を生むような出会いであったように思えた。しかし君が彼と出会ったのは、月の運命であったのだ。なぜかと言えば、そもそも僕の方には、そんなつもりはなかったのだから。 「彼もきっと夜を求めているの […]
『Mirror』小林央(『桃太郎』)
ツイート 「それじゃあ、行ってくるよ」 それは、いつもと変わらない朝の風景。 仕事へ向かう旦那。 足に絡みつく幼い息子と一緒にその姿を見送るのが、私の日課だ。 「ほら、パパにいってきますのちゅーしてあげたら?」 「ぱぱの […]
『砂利道』広瀬厚氏(『トロッコ』)
ツイート 何年ぐらい前になる? 半世紀近く前になる。朧げ幽かである。色は有るのか? ああ有る。が、古いネガカラープリントのような鮮明さに欠けた余所余所しい色だ。自然切ない。君だよね? ああ僕だ。多分。多分? ああ多分。 […]