午前六時。漸く空がいつも通りの顔になる頃。
朝だけは早い。
アラームはかけないけど、決まってこの時間に目が覚める。
寝間着から華麗に私服に着替える。
その姿はケツァールのように優雅だと言われている。
父親に。
「うむ、今日もケツァールの様に優雅だね。」
自分の部屋からリビングに移動して、コーヒーを入れる。
その匂いと雰囲気に僕は酔う。
酩酊する。
クラクラして足が覚束ない。
まるで蝶のように舞い蜂のように刺すボクサーの様だと言われている。
母親に。
「あら、蝶のように舞い蜂のように刺すボクサー見たいね。」
コーヒーを飲んでいい感じな気分になったところで、朝食を食べる。
父親、母親、妹がテーブルに座り、四人で食べる。
僕の足元にはミニチュアピンシャーのミッシュが、物欲しげな目で僕の口からこぼれ落ちる何かを狙っている。
僕は一つも口からこぼさず、ミッシュの期待をこれでもかというくらいに裏切ってやった。
だって当たり前だろう。
人間のものを食べたら犬は病気になりやすくなってしまう。
これも愛情の一つなのだよミッシュ、わかっておくれ。
そんな光景を、玄関口に繋がれたラブラドールのマフィンが顔を床につけて、情けない表情でこちらを見ていた。
彼はとにかくでかい。
もう熊なんじゃないかってくらいにデカイ。
デカイというよりデケェ。
色もチョコレートみたいで、より一層。
だから玄関に紐で繋がれているのだ。
僕は朝食を食べ終わり、ソファで朝の情報番組を見ている振りをしながら新聞を開いて、活字を読んでいる振りをしていた。
そしてそのあとスマートフォンで株の上がり下がりを見て、わかっている振りをした。
その姿まるで、フランク・アバグネイルの様だと言われている。