『柿を食う時』室市雅則(『柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺』)
ツイート 柿を食った。 タイミングを見計らって。 鐘が鳴る。 思っていたよりも甲高い。 柿を咀嚼する。 超甘い。 駅前のスーパーで買ったのだが、ポップに『超甘い』と下手クソな字で書かれていた。 本当だった […]
『そして誰もが生き返ってほしかった』洗い熊Q(『クックロビン』)
ツイート 誰が殺したクック・ロビン。 それは私よ、スズメがそう言った。 ……すいません。 暇を持て余し、ついマザー・グースの詩の一篇を口ずさんでしまいました。 余りに今の私に合っている様な気がして。 皆さん、 […]
『意地悪なお姉さん』鷹村仁(『シンデレラ』)
ツイート 父が再婚をした。とても綺麗な女性。再婚は全然構わなかったし反対ではなかった。しかし嫌な事が一つだけあった。それは、その女性には連れ子がいた。名前は「美和」で、私と同い年の17歳。平凡な顔をしている私とは対照的 […]
『コリキといっしょ』緋川小夏(『 花さか爺さん』『桜の樹の下には』)
ツイート 犬の「コリキ」が死んでしまってから、もう一週間になる。 コリキは僕が生まれる前からずっと家にいたオスの柴犬だ。昔、お父さんが、近所で生まれた子犬の中からもらってきたらしい。 茶色っぽい短い毛にピンと立った耳 […]
『思い出のきびだんご』あきのななぐさ(『桃太郎』)
ツイート 「おじいさん、おばあさん、それでは行ってきます」 長年世話になったこの家とも、しばらくお別れだ。 長かったような、短かったような……。 でも、今はそんなことを言っている場合じゃない。 一刻も早く取り戻さ […]
『ただこれが愛じゃなかっただけ』柿沼雅美(『チャンス』)
ツイート 「人生はチャンスだよね。結婚だってチャンスだ。恋愛もチャンス」 僕は高揚した気分のまま言う。 「へー、じゃあ恋愛ってなんだと思う?」 ジンジャーミルクティーなんて辛いのか甘いのか分からないものが入ったカップ […]
『誰』沢田萌(『河童』)
ツイート 森が僕と日常を切り離した。 そもそも河童なんてこの世に存在するのか分からないけど、僕はその得体の知れない生き物を釣ろうとしていた。 なぜ釣ろうとしているのか、伝説の生き物に対する憧れなのか、それとも怖いも […]
『カッソは神になる』美日(『桃太郎』『浦島太郎』)
ツイート 「妹と母親を犯すか、兄の両腕と両足を切り落とすかどちらかを選べ」 そう言われて13歳の少年、カッソは泣きながら兄を殺した。 カッソの小さな村は武装集団に襲われたのだった。 カッソの村は、山岳地帯で小さな畑 […]
『銀河、夢で見た』森な子(『銀河鉄道の夜』)
ツイート 春子が家を出よう、と決意をしたのは、母の手作りコロッケがきっかけだった。 二十歳、短大を卒業し、社会に出て働きはじめて五か月がたった。なんとか仕事に慣れてきはしたものの、四年生大学卒の年上の同期たちになんと […]
『愛はふたりが同時にめざめる朝』いわもとゆうき(『浦島太郎』)
ツイート マンションに帰るとドアの前に乙姫がいた。 楽しい楽しい夢のような日々を竜宮城で過ごして戻ってきてから一年が経っていた。何しろ竜宮城から戻ると浜辺の景色は激変していたし、家族や親戚はおろか知り合いさえもまった […]
『と・か・げ』もりまりこ(『とかげ』)
ツイート 幹を揺らすと、しゃらりと音をたてながらこぼれる落ち葉。 緑色だった葉っぱがいつのまにか枯れ葉色になっていて、つながっていた場所からふいに離れてゆく。まるで無所属だ。せいせいする風通しのよさ。 落ち葉になっ […]
『RYUGU嬢』村田謙一郎(『浦島太郎』)
ツイート カバンに書類を入れ、立ち上がったところに声がかかった。 「おい三浦、まさかおまえ帰る気か? 企画書できてねえだろ」 威圧的な黒田課長の眼光が、じっとこちらを捉えている。 「すみません課長、今日はちょっと頭回 […]
『異世界生きもの探訪 第一回 森の千両役者 エルフ』狂フラフープ(『北ヨーロッパ民間伝承』)
ツイート ”エルフは短命である。これに限らず、巷間で語られるエルフの姿は誤解と偏見に満ちている。彼らは我々によく似た姿をしているが、実際には生物としては我々などよりもむしろ鉄蓋虫辺りに近い。大食いで肉を好み、力強く、魔法 […]
『むじな』大森孝彦(『むじな』)
ツイート 秋の日のつるべ落としと言うが、日が落ちるのがめっきり早くなった。 佑太くんと遊んだ僕は、夕方六時のチャイムが鳴る前に家路についたのだが、空はすぐに暮れ色に染められ、徐々に暗色へと転じていく。 点在する街灯 […]
『まつり』大森孝彦(『ひな祭り』)
ツイート 「うわあ」と、僕は叫んだ。 迫りくる死から、とにかく逃れんとして、着地の心配など全くせず、がむしゃらに跳んだ。 跳び引く前にいた、まさにその場所に、矢が突き刺さる。矢は、しばらく揺れてから動かなくなった。ま […]
『キレイの在り処』十六夜博士(『みにくいアヒルの子』)
ツイート 鏡に映る自分が変わっていく。その光景は得も言われぬほど不思議なものだ。道端に転がっている何の変哲もない石ころが、魔法によって宝石になるような……。 真由美が笑うと、鏡に映った真由美も笑う。 ――どっちが本当 […]
『フライドポテトを食べたらさ』義若ユウスケ(『ピーター・パン』)
ツイート ぼく名前は豆狂鬼田門モヒカンベーコン。豆狂鬼田門が苗字で、モヒカンベーコンが下の名前。二十歳だ。 ある日、ぼくは思った。 この世界に愛以上に重要なことなんてあるだろうか? そしてぼくは求婚した。 「結婚 […]
『マルガレータ』次祥子(『白雪姫』)
ツイート 空のバケツをぶら下げ、城の使用人が部屋を出て行った後には、鼻を突くような異臭が広がった。中央に置かれた古いテーブルの上に純白の大皿が一枚。その中に生々しい心臓が真紅の血だまりを作り載せられていた。 大きな鏡 […]
『悪夢的存在』和織(『冗談に殺す』夢野久作)
ツイート 「顔についてるぞ」 自分で右の頬を指差し、俺は女に教えてやった。すると女はコンパクトを開き、その中の鏡を見て、頬についていた血を、化粧をするような手つきで拭き取った。それから鏡越しに、後ろに立っている俺を見る […]
『人魚の海』藤野(『人魚姫』)
ツイート 「本当にこの道であってる?」 僕の声にだいぶ不安が混じっていたのだろう。助手席で退屈そうに髪をいじっていた彼女が振り向いて微笑んだ。 「大丈夫、間違っていないから」 そう言って、彼女はいつも大事に抱えてい […]
『ミスターブルーバードをさがして』村山あきら(『青い鳥』)
ツイート 子供たちが世界で一番幸せになれる日の夜に、千鶴と弟の充は世界で一番不幸せな気持ちでした。 「信じられないわ。クリスマスなのにプレゼントがないなんて」 先程、お母さんに今年のクリスマスはお祝いなしと告げられた […]
『ぼくたちの自由』大知牧(『八尾比丘尼伝説』)
ツイート 学生最後の夏。最後の『自由』になるかも知れない。 そう思って、いつも通り皆でファミリーワゴンを借りて、俺達はキャンプ場にやって来た。 メンバーはいつもの三人。大学の友達の岡島と由良と俺・嶋野大地。 俺は […]
『第二ステージ』戸田鳥(『時計のない村』『金の輪』小川未明)
ツイート 僕はこれまでに二度、死にかけた。 最初は生まれた時。母親のお腹から出た僕は呼吸が止まっていて、生後数分で暗闇に逆戻りするところだった、らしい。二度目はつい先月。自転車に乗っていて、横につけた車が確認もせずに […]
『さくら』和織(『線路』夢野久作)
ツイート 終わりの見えない線路と、そこに在る何か。気がつくと目の前に広がっていたその光景に、さくらは戸惑った。どうして自分がこんなところにいるのか、それが何なのか、全く心当たりがなかった。全てを忘れてしまったような感覚 […]
『ツルと持参金』永佑輔(『持参金』『鶴の恩返し』)
ツイート ただでさえジャワジャワせみ時雨がわずらわしいというのに、日陰でもグッショリ汗ばんでしまうというのに、近所の動物園は蜂の巣をつついたような騒ぎだ。 園職員はもちろん警察と消防まで、逃げた動物を捕獲するための網 […]
『no little red food』日吉仔郎(『赤ずきん(little red hood)』)
ツイート 正座でしびれた足を崩すと、漆塗りのお重が運ばれてきた。割烹着姿のおばさんが鰻重とお吸い物とお漬物をわたしとお父さんの前に置いてくれる。 これが四千三百円。 今日は年に数回あるお父さんと出かける日で、上野ま […]
『とある少女の物語』御厨明(『不思議の国のアリス』)
ツイート これは、とある少女の物語。 ある所に、一人の女の子がいました。少女の名はアリス。 彼女は夢見がちで、無邪気で、世間知らず。 けれどもどこか世界を穿った目で見る女の子でした。 ある日アリスは、窓辺で頬杖をついて、 […]
『Erlkönig』希音伶美(『魔王』)
ツイート ヨハンには大切な場所があった。 仔馬を勝手に連れ出して父さんに叱られた時、エリザベト婆さんの手編みのニットをシャルロッテが引き裂いてしまった時、エリスの髪に触れてわけもなく泣きたくなった時、母さんの咳が日に […]
『福男、走る。』新月(『幸福の王子』)
ツイート そう、確か10年位前だった。じいちゃんと一緒に神社に行って福男の話を聴いたのは。じいちゃんの昔話はつまらなくて聞き流していたのに、その話だけは、いつも真剣に聴いていた気がする。 今よりはまだ張りのある手で髪 […]
『あなたは人形』中杉誠志(『人形(文部省唱歌)』)
ツイート 「愛してるよ、マリ。また明日」 「はいはい」 学校帰り、家の前でニシムラと別れ、玄関を入ると、キッチンのほうからママの歌声が聞こえた。声に誘われるように足を向けると、ママは料理をしながらお気に入りの童謡をくち […]