これは、とある少女の物語。
ある所に、一人の女の子がいました。少女の名はアリス。
彼女は夢見がちで、無邪気で、世間知らず。
けれどもどこか世界を穿った目で見る女の子でした。
ある日アリスは、窓辺で頬杖をついて、空を眺めていました。
「…はぁ」
アリスには、ある望みがありました。それは、お姫様になる事でも、空の星を手に入れる事でもありません。
アリスの望みはたった一つ。不思議の国へ、再び赴く事でした。
それはアリスが今よりすっと子供だった頃に、いった場所でした。
「あぁ。あの世界にもう一度行ってみたい。不思議なお茶会に参加して、喋るトランプや猫や兎に逢うの」
アリスは、いつもそう願っていました。けれど、あれきり不思議の国へはなかなかいけません。アリスは、哀しくなって呟きました。
「誰も信じてくれないけれど、私は不思議の国へ行ったのよ。お母様もお姉様も夢でも見たのよって笑うけれど、私は確かに不思議の国へ―――」
と、その時。カタン――という物音がして、アリスは振り返りました。
「誰?廊下に、誰かいるの?」
返事はありません。アリスは、恐る恐る扉を開けて、廊下へ顔を出しました。
「え?」
アリスは驚きました。そこにいたのは、真っ白な兎だったのです。
「急がなくっちゃ。早くしないとまた叱られるっ」
白兎はそう言うと、廊下の向こうへ走りだしました。
「今のは…白兎だわ!あの時と同じっ。ねぇ待って兎さん!」
アリスは、急いで白兎を追いかけます。
「ねぇ待って!待ってったら!」
「急がなくっちゃ、急がなくっちゃ!」
アリスは追い掛けながらそう呼びかけましたが、白兎は気付きません。
けれどアリスは、嬉しくて仕方がありませんでした。
「あの時と同じ。白兎を見つけて、それを追いかけて、穴に落ちて…。でも、今度は絶対捕まえて見せるわ!」
アリスは、一生懸命走りました。走って、走って、走って、そして。
「捕まえた!」
「うわっ!?」