小説

『フライドポテトを食べたらさ』義若ユウスケ(『ピーター・パン』)

 ぼく名前は豆狂鬼田門モヒカンベーコン。豆狂鬼田門が苗字で、モヒカンベーコンが下の名前。二十歳だ。
 ある日、ぼくは思った。
 この世界に愛以上に重要なことなんてあるだろうか?
 そしてぼくは求婚した。
「結婚して結婚して!」って往来で、手当たり次第に。百人の女に。
 ところが誰もイエスっていわないんだ。
 わざわざぼくが目の前に膝まずいてやってるのに、どいつもこいつもいぶかしげな視線をよこすだけで、しまいには煙みたいにフラッとどっかへ行っちまうんだ。
 ちぇっ。ちぇっ。くそったれ。
 ぼくは地団駄踏んだよね。
 地球を踏み割ってやりたい気分だったね。
 その時だ!
 そいつは木の葉のように、いや、さながら天使のように、ヒラリと空から落ちてきた。
 超絶キュートなお姫様。体長は十五センチほどかな。極彩色のドレスを着ていた。おやおや、こいつはティンカーベルかな? とぼくは思った。ティンカーベルってのはピーターパンの親友の超プリティな妖精のことだ。ネバーランドにいっぱいいるから、もしまだ見たことがなければ見に行くといい。かわいいから。
 彼女は蝶々みたいに軽やかにぼくの鼻先にとまって、鈴のような声でいった。
「ねえ、お腹すいたわ。ハンバーガー屋さんはどこかしら?」
 やったね!
 ボーイミーツガール!
 美しき世界に祝福を!
 ぼくは彼女をエスコートした。
 道に迷うことはなかった。白状しよう。ぼくは地理にはめっぽう強い男なのだ。それはもう最強といってもいいくらいに。
 問題なくぼくたちはハンバーガー屋さんについた。
「フライドポテトとソーダを」と彼女は注文した。
「彼女と同じものを」とぼくはいった。
 ぼくたちは席についた。
 すぐにフライドポテトとソーダが運ばれてきた。
「フライドポテトを食べたらさ」とぼくはいった。「結婚しようか」
 まあ、と目をまるくして彼女は笑った。
「そうね、考えておくわ。フライドポテトを食べおわるまでに」
 ぼくたちは結婚した。

 
 彼女は変わった名前の持ち主だった。

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