『灯台守の犬』はやくもよいち(『定六とシロの物語(秋田の昔話:老犬神社)』)
ツイート 灯台守のパラディ先生がランタンを左手に、右手で石壁を伝いながら螺旋階段を上ります。 中型の雑種犬・ペスは、主人の足元に注意しつつ後を追いました。 彼らは灯台のわきにある小屋に住んでいます。 かつて周辺で航空事故 […]
『軸木は黒く燃え残る』洗い熊Q【「20」にまつわる物語】(『マッチ売りの少女』『アリスの不思議な国』)
ツイート 真っ暗闇。今は真っ暗闇。 月の光も、星の光も。 何もない真っ暗闇。 「……お兄ちゃん、怖いよ~」 「……大丈夫だよ、大丈夫。ほら、兄ちゃんの手を掴んでいて良いからさ。大丈夫だよ」 何も見えない中、手探り […]
『祝祭の日』藤野【「20」にまつわる物語】
ツイート 祭りの朝は例年通りの快晴だった。 サーシャは息を整えるために、腕に抱えていたたくさんの食材の入った袋を下ろして顔を上げた。 この日のために用意された村伝統の晴れ着を身につけた子供達が、そこかしこで駆け回っ […]
『アケガタ・ユウガタ』もりまりこ【「20」にまつわる物語】
ツイート 黒いテーブルの上に置かれたグラス。みずのしずくがグラスの外側にふたしかな円のかたちでくっついている。 すきとおるむこうがわの景色の色だけが、にじんで。 「スロウ・グラス」と題された1枚の写真があしらわれた1 […]
『飛べなかった記憶』高橋己詩【「20」にまつわる物語】
ツイート 蛍光灯から紐がぶら下がり、その紐の先には、親指程度の大きさの熊の人形がぶら下がっている。畳の上に転がる私は、しばらくその物体から視線を逸らさずにいた。一度紐へと伸ばした左手は、今は頭の下に入れている。 縁側 […]
『次、停まります。』間詰ちひろ【「20」にまつわる物語】
ツイート 「ねえ、知ってる? T市のバス停の話!」 クラスメイトの恭子が、得意げな顔をしながら、絵美に話しかけてきた。 現代国語の課題をずっと出せずにいる絵美は、話しかけられていることすら気がつかない。机の上に広げて […]
『長生き杖』田中希美絵【「20」にまつわる物語】
ツイート 母方の祖父は無口な人だった。年子の三人姉妹の私たちがたまに遊びに行くと、迎えてくれるのはいつも祖母のほうで、祖父の方はどこかに出かけているか、たまにいても階下の書斎に篭っていた。 それでも覚えているのは、真夏の […]
『手取り20万円』広瀬厚氏【「20」にまつわる物語】
ツイート カシャン。1.2.3.4.5……… 毎月20日、タイムカードをレコーダーに通し、そこに記録された出勤日数を数える。 「今月はなんとか20万円ありそうだ」タイムカードを手にボソリつぶやく。 毎月20日が給料 […]
『チヨコ 初号機』洗い熊Q(『魔法使いの弟子』)
ツイート 「きゃあ~~! どうしよう、どうしよう、シンちゃん!? 私、すんごいよ!!」 俺の隣でチヨコが歓び叫ぶ。座っている椅子から腰を浮かして飛び跳ねていた。 その原因は目の前にいる占い師のせいだ。目元以外を紫のベ […]
『魂齢を量る階段』小原友紀(『お階段めぐり』)
ツイート 男は立ち尽くしていた、かの有名な、彼岸(ひがん)なる時空に。 もはや肉体の無き今、漂っていると言うべきか。それにしては、四肢の感覚がおぼろげに残り、弱り細って黄ばんだ己の手が分かる。 「此(し)岸(がん)の […]
『あなたはかわいい』渋澤怜(『手袋を買いに』)
ツイート 「人間ってほんとにこわいものなんだよ。人間はね、相手が狐だと解ると、手袋を売ってくれないんだよ、それどころか、掴まえて檻の中へ入れちゃうんだよ、人間って本当に恐いものなんだよ」 母さん狐に何度もそう言い聞かせ […]
『キリエの匣』三觜姫皙(『クネヒト・ループレヒト(黒いサンタクロース)』)
ツイート クネヒトルプレヒト。 通称、黒いサンタクロースは赤いサンタクロースの衣装を黒に替えた洋服を着込んでいる。 親の言うことを聞かない悪い子へのプレゼントは石炭とかじゃが芋とか、子どもが好まないもの。親の言うこ […]
『専業労働者』高橋己詩(『アリとキリギリス』)
ツイート アリ太は上半身を起こし、テーブルの上に置いてあるマグを手に取りました。マグの中の氷はすべて溶け、オレンジジュースは色が薄くなっています。 ごく、ごく 味も薄くなったオレンジジュースを飲み干すと、アリ太は立 […]
『あめゆき』緋川小夏(『雪女』)
ツイート 重厚な木の扉を開けると、純白のドレスに身を包んだ娘が緊張した面持ちで立っていた。 「あ、お父さん。ドレス……どうかな?」 「おめでとう、小雪。とてもよく似合っているよ」 「本当に? 良かった」 わたしの言葉 […]
『飲み込んだ涙のゆくすえ』間詰ちひろ(『浦島太郎』)
ツイート 「なんで、おばあちゃんは、俺にそんなもの残したんだろ……?」 春先に亡くなった祖母が、遺言を書き残していた。その遺言の中に、場違いとも思えるように「これは浦田史郎に渡しなさい」と記されたものがあったのだと […]
『絶望聖書』柘榴木昴(『クーデンベルク聖書』)
ツイート 心臓の性感帯を舐める。心の奥底には感じるふくらみがある。そしてまさに心底欲しいと狙ったそれだけが心房の乳房を破る。コレクターとは集める者にあらず、触れる者である。そのモノに触れる指は、実はそのモノを透過して己 […]
『トイレの平田さん』山名美穂(『祇園精舎』)
ツイート 古い校舎の鐘の音、掃除開始の合図です。 3学期が始まったら、トイレの平田さんがいなくなっていた。 学校には当然、掃除の時間がある。割り当てられた箇所を、各班が週替わりで清掃するのが決まりだ。教室とか、 […]
『はたから見たらごんぎつね』渋澤怜(『ごんぎつね』)
ツイート A 業深いきつね 山の中で一人ぼっちで暮らすごんというきつねは、心の底から意地汚い子狐で、夜でも昼でも、あたりの村へ出てきて、いたずらばかりしていました。はたけへ入って芋をほりちらしたり、菜種がらの、ほしてあ […]
『完璧な子供』中杉誠志(『夢十夜・第三夜』)
ツイート 武蔵野線か、中央線か、はっきりしないけれども、とにかくJRのどこかの駅のホームで、私は列車を待っている。さほど混雑はしていないが、黄色いラインの真上に立つ私のすぐ前を、たびたび列車がすごい速さで通りすぎていく […]
『蟻』杉長愁(『蟻とキリギリス』)
ツイート 「安藤も大変だったなぁ。俺は葬儀の時以来だから一年ぶりぐらいか。今はあいつも親父の会社軌道に乗せるために色々大変なんだろうな」 博文はそう言い終わると、もう何杯目かのビールジョッキをぐいっとあおった。もうジャ […]
『月を飲んだはなし』義若ユウスケ(『名犬ラッシー』)
ツイート ある日の夕方のこと、月がずいぶんうすっぺらに見えたので、小石を投げてみたのです。すると、こつんと、たしかな手ごたえ。えい、もう一つ。やあ、もう二つ。それ、もう三つ。いきおいづいてどんどん投げていると、ついに、 […]
『醜い人』長谷川蛍(『みにくいアヒルの子 』)
ツイート 僕は醜かった。「人生において、最も重要なものはその人格であり見た目の良し悪しではない。人格によって人生が左右されるのだ」と言うには、僕の顔は醜すぎて、外見が日々の生活に影響を与えているのは明らかだった。目は、 […]
『舌(ZETSU)』不動坊多喜(『王様の耳はロバの耳』)
ツイート 雨戸を開けると、梅雨の合間の太陽が差し込んだ。風が、重く湿った空気を動かす。 実に、三十年ぶりの我が家だ。 「最近は、家の片付けを代行してくれるサービスがあるそうだけど、必要ないわね」 妻が、襖を開けなが […]
『ブレイキング・フリーキング・ドリーミング・ドール』糸代芽衣(『ピーターパンとウェンディ』)
ツイート かつて、青を抱く星で幾度も大きな戦争があった。 十二度までは耐えたが、十三度目を迎えた時、ついに星は死に絶えようとしていた。 そんなある時、深い深い地底より菫水晶の妖精が現れた。 妖精は地球を救い、ほん […]
『芋虫の結末』和織(『LA CHRYSALIDE ET LE PAPILLON』ジョルジュ・メリエス)【「20」にまつわる物語】
「やっぱりみんな綺麗な人間が好きなんだよね」 早く帰りなさい、と、見回りに来た僕がそう言うより先に、石川豊乃が冷めた声を上げた。教室は、飽き飽きするような青春染みたオレンジ色を宿していて、窓際の席に座った彼女の視線は、 […]
『カタリベマッチ』もりまりこ(『マッチ売りの少女』)【「20」にまつわる物語】
自分の笑い声で眼が覚めた。口元がゆるんですこし枕を涎で濡らしている。拭うと妙に冷たくて、うつぶせになったまま一言声のような獣のような意味のない声を放った。 遠い空からヘリの音とたぶん隣の住民が廻しているらしい洗濯機の […]
『二十年後、変わらないもの』ウダ・タマキ【「20」にまつわる物語】
ツイート 早いもので、あれから二十年の月日が流れた。 十年一昔と言うように、世間は目まぐるしい勢いで移り行く。二十年も経て ば過去の産物として、この世に存在しないものさえ多いが、この村には二十年の月日がもたらす変化は […]
『つみのかけら』もりまりこ【「20」にまつわる物語】
ツイート それを聞いてしまったらそれがそいういうことなのか、なんだか気になってしかたなくなるかもしれないっていちまつのそわそわを感じて落ち着かなくなるはずなのに。 耳子は、ひとのなやみをきく仕事をしていた。 そりゃ […]
『空は青とは限らない』富田未来【「20」にまつわる物語】
ツイート 「上」 画面が変わる。 「斜めした」 画面が変わる。 「右」 保健室で、右目をスプーンで抑えている少女がいる。 「はい、いいですよ」 スプーンをおく少女。 先生が診断表の視力の欄に2・0とかいた。 「目がいいの […]
『Born to Lose』広瀬厚氏【「20」にまつわる物語】
ツイート 20日後、奴は死んじまいやがった! 1991年4月3日。ちょうど俺は20才だった。若く無鉄砲な俺にとって奴はヒーローだった。ジャンキーなロックンロールヒーローだった。ジョニー•サンダースが川崎のクラブチッタ […]