真っ暗闇。今は真っ暗闇。
月の光も、星の光も。
何もない真っ暗闇。
「……お兄ちゃん、怖いよ~」
「……大丈夫だよ、大丈夫。ほら、兄ちゃんの手を掴んでいて良いからさ。大丈夫だよ」
何も見えない中、手探りして兄の手を掴む。
しっかりと握ったら、身体も寄せ合って妹は側から離れない。
「お兄ちゃん、真っ暗で怖いよ、やっぱり」
「大丈夫だよ。兄ちゃんが側にいるし、それによく見てごらん。みんな、近くにいるだろ?」
真っ暗闇。じっと睨んで見る、真っ暗闇。
そしたらポッと灯りが見える。
揺らいでいる。偶には小さく、偶には大きくなって。小さな灯火が揺らいでいる。
揺らいだ灯火は一つじゃない。
二つあったと見えたら、もう三つ。四つも見つければ幾つも。小さく揺らいでいる灯火達。
その灯火達をよく見れば、小さな灯りを囲み俯く大人達が。消えてしまいそうな灯火を、悲しそうな瞳でみんな見つめている。
「ほらね、見えるだろ? みんないるから大丈夫だよ」
「……うん」
「だからさ、騒がないでね。みんなの迷惑になるからさ」
兄が妹の頭を撫でて上げた。暗くて見えないから、出来るだけ優しく、優しく。
そうしたら――。
どーん! どーん! どーん!
遠くから聞こえ始める音。揺れて地面が響くような音。それが何回も、何回も。
どーん! どーん! どーん!
怒っている。大地が怒鳴っている。そんな音が頭の上から降り注ぐ、そして足裏からも伝わってくる様で。
「……お兄ちゃん、怖いよ!」
妹は兄の腕に必死にしがみつき、そして隠すように顔を兄の腕に埋める。