クネヒトルプレヒト。
通称、黒いサンタクロースは赤いサンタクロースの衣装を黒に替えた洋服を着込んでいる。
親の言うことを聞かない悪い子へのプレゼントは石炭とかじゃが芋とか、子どもが好まないもの。親の言うことを聞かない悪い子よりも悪い子の寝ているベッドへ豚の臓物をぶちまけるらしい。そして、そして。親の言うことを聞かない悪い子よりも悪い子、その子よりもとてもとても悪い子はサンタの袋に詰め込まれて連れ去られてしまうという。
「プレゼントの包装だけどー、まぁちゃんとくぅちゃんのヤツ、おんなじにして、隅っこに小さいシールとか貼ってもらってね。うんうん。そう、リボンとかも同じにして置かないとー、違う違うってうるさいから」
今年もクリスマスまで1週間を切った日のことだった。
九十九桐恵(つくもきりえ)の隣のデスクで大学事務をしている、嘉島(かしま)の声が響いている。
「あとくぅに駄々こねると、プレゼントはもらえないし、黒いサンタが来て、攫われるよって言っておいて」
確かに今は就業中ではなく、昼休みで、事務室へいるのは事務室の職員である桐恵と嘉島と主任の柊(ひいらぎ)くらいなものだ。柊は柊であまり厳格な性格という訳ではなく、職場で私用の電話をしていても何も言わない。だが、桐恵はその現状を苦々しく思っていた。
「すみません、柊主任。食事をとってきたいのですが」
嘉島のいつもより高く、大きな電話の声。しかも、隣のデスクから5分10分と続くその声に仕事が思うように進まず、桐恵は柊に退室を断る。重ねてになるが、今は昼休みで、食事や運動、休養なんかをする為、桐恵と嘉島と柊以外の職員は事務室を空けていた。ただ、大学の事務室という性質上、昼休みにこそ電話が鳴ったり、手続きをして欲しいと学生や教授達がやってきたりするので、事務室を空けない方が良いと桐恵は考えていた。
「もちろん、良いですよ。誰か来る予定とかはありますか?」
「いいえ、分かっている限りではいません。もし、誰か来られても13時までには戻りますので、そのように伝えてもらえれば……」
「分かりました。13時とは言わず、ゆっくりしてきてください」
送り出してくれた柊へ。桐恵はマスクの上からでも分かるように目を細めてみせると、「ありがとうございます」と言った。