小説

『キリエの匣』三觜姫皙(『クネヒト・ループレヒト(黒いサンタクロース)』)

 親の言うことを聞き続けた良い子へのプレゼントはダイアモンドとか綺麗な人形。親の言うことを聞き続けた良い子よりも良い子には豚の臓物を焼いて食べさせてくれるらしい。そして、そして。親の言うことを聞き続けた子よりも良い子、その子よりもとてもとても良い子はサンタの袋さながらの真っ白なオープンカーに乗せられて連れ去られてしまうという。

「キリエちゃんは本当に良い子だね」
 クロエはやっと手に入った人形を可愛がるようにキリエの前髪を梳いた。
「桐恵ちゃんの時のキリエちゃんもとっても良い子で、嫌なことがあってもいつも頑張っていたね。もうマスクで隠したりしなくても良いんだよ」
 キリエの前髪を梳いた指でその下の鼻と唇をスッとなぞると、大き目のマスクは跡形もなくなった。もう鬱々とした存在や毎日に歪んだ唇を隠すこともない。誤解と面倒がないように何とか取り繕う必要もなくなった。
「あと、指だけはとても痛そうだから直しちゃうね」
 アカギレやサカムケだらけのキリエの指。クロエはキリエの手の甲に唇を重ねると、それらは1つもなくなり、換わりに青いダイアモンドの指輪で飾った。
「ゆるふわパーマも清楚なスカートもガウチョパンツも似合うだろうけど、無理にする必要ない。そんなことをしなくても、私のキリエちゃんはこの上なく可愛くて美しいのだから」
 華美ではないものの、黒地に青が差し色で入っている上品な様式のドレス。それはクロエが贈り、桐恵だったキリエが選んだものだった。
「また外に出て、傷ついたり、汚れたりするといけないからお部屋で遊ぼうね」
 クロエは終始、上機嫌だが、キリエは一言も話さなかった。一言も話さず、目を見開いたまま、ガラスの棺に収められていた。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10