小説

『次、停まります。』間詰ちひろ【「20」にまつわる物語】

「ねえ、知ってる? T市のバス停の話!」
 クラスメイトの恭子が、得意げな顔をしながら、絵美に話しかけてきた。
 現代国語の課題をずっと出せずにいる絵美は、話しかけられていることすら気がつかない。机の上に広げている課題のプリントを睨みつけているところだった。
「絵美ちゃん、話、聞いてるぅ?」
 突然自分の名前をよばれ、絵美は思わず「はい!」と言って、勢い良く立ち上がった。がたん、という椅子の音が大きく響きわたり、クラス中の注目を浴びた後、くすくすと笑い声がおこった。
 絵美はキョロキョロとあたりを見渡しながら、何やら自分が勘違いをしていることに気がついた。ぱたぱたとスカートの裾を払うフリをして、慌てて席に座りなおした。
 「絵美ちゃんごめーん。まさか、そんなに集中してるなんて思わなくて……」
 恭子は手を合わせながら、ごめんごめんと苦笑いしながら絵美に謝る。
「もう、恭子ちゃんのせいで、恥かいちゃったよ……」
 絵美は軽く睨むような目線を、恭子に投げかけながら「で、なんだっけ?」と問いかけた。課題に対する熱意も集中力も、すっかりどこかへ飛んでいってしまった。
「そうそう、聞いて! T市のバス停に起きる都市伝説のはなし。絵美ちゃん聞いたことある?」
「え、知らない。T市なんて、川を渡ったらすぐじゃん。なになに?」
「私も今日聞いたばっかりなんだよね! 」
 そういって、恭子は得意げに話し出した。
「なんかね! T市にある『二十(はたち)』っていうバス停があるの、知ってる? そのバス停でね、未来の自分に会えますようにって、三回お願いするんだって。そしたら、つぎにバスが停まったとき、降りてくる人が、二十歳の自分の姿なんだってー!」
 恭子は前のめりになりながら、絵美に説明した。
「ふうん。でもさ、その降りてきた人が『未来の自分』かどうかなんて、わかんないよね? 確認できなくない?」
 興奮状態の恭子とは違い、絵美は少しだけがっかりしていた。二十歳の自分に出会ったところで、何かいいことってあるのかな……?
「ううーん、絵美ちゃん、きびしいねえ。でもねでもね! ここからが怖いんだよ! ある男の人が試してみたんだって。もうすぐ二十歳になるっていうときにね。『自分とそっくりの人間がバスから降りてくるかどうか、ためしてやる』って」

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