小説

『次、停まります。』間詰ちひろ【「20」にまつわる物語】

 お母さんの昔のアルバムを見ながら、おばあちゃんと話したことで、絵美の心にかかっていたモヤのような思いはスッと消えていた。お母さんにはもう、二度と会えない。けれど私のなかには、お母さんと、お父さんがいる。その前にはおじいちゃんも、おばあちゃんもいるんだ。そう思うと、母親譲りらしい硬くまっすぐな髪の毛も、好きになれた。
 あの、「二十」のバス停で出会った女の人は、未来の私だったのだろうか? 昼食を食べ終えた後、プリント用紙を広げながら、ぼんやりと考える。おそらく、死んでしまった母でもあるし、未来の私でもあったのだろう。
 どちらにしても、それは「私」なんだ。そんなことを考えながら、絵美は「私の家族について」と題した作文を書きはじめたのだった。その書き出しは、こんな風に始まっていた。

−−私の母親は、私が幼稚園のときに交通事故にあって、亡くなってしまいました。けれど、私のなかには、今は会うことができない母も、大好きな父も、優しいおばあちゃんもいるんだと、気がつきました-

 絵美の書いた作文は、市の作文コンクールで入賞を果たしたという連絡を受けたのは三ヶ月後のことだった。賞状と副賞が、学校に届けられ「ちょっと難しい題材だったのに、よく書けたね」と先生が褒めてくれた。絵美はなんだか、自分の家族も褒められたように感じた。くすぐったくもあり、誇らしい気持ちだった。
 副賞が入った小さな箱を開けてみると、そこには腕時計が入っていた。蛍光灯の光を受けて、ガラス面がキラリと瞬いていた。

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