小説

『チヨコ 初号機』洗い熊Q(『魔法使いの弟子』)

「きゃあ~~! どうしよう、どうしよう、シンちゃん!? 私、すんごいよ!!」
 俺の隣でチヨコが歓び叫ぶ。座っている椅子から腰を浮かして飛び跳ねていた。
 その原因は目の前にいる占い師のせいだ。目元以外を紫のベールに包まれた、いかにもとの怪しすぎる姿の女占い師。こいつがとんでもない事を言い出したせいだ。
「貴方は先の未来。世界を征服する覇者の存在になれるでしょう。うん、間違いない。全世界を統治できます」
「きゃあ~! 世界征服だって、世界征服だって! シンちゃん!」
 そう言いながらチヨコはバンバンと俺の背中を力任せに叩く。
 もうそこそこ長い恋人生活をしている、このチヨコと。お世辞でなく彼女の見た目は可愛い。しかしその性格は異性からモテない。
 いわゆる不思議系。だがチヨコはその系を飛び越えて段違いの異星人だ。
 バンバンバン! ゴスッ!!
「てっ、いってー! 何で何時も最後にグーで殴るんだ、お前は!」
「あ、ごめ~ん。力むと憧れていた時の癖がでちゃうんだよね」
 何に憧れてた? 何に憧れたら捻り込むようなパンチを打つようになるんだ?
 こんな事は序の口だ。俺自身もどうしてここまで付き合っているのか分からなくなる時がある。
 この日もそうだ。テント張りの怪しい占い小屋に、ここの占い師は当たるらしい? 当たるかも? 当たると良いね、と言いながら連れ込まれた。そしてこの様。この胡散臭い占い師がとんでもない事を言いやがった。
「それでは今度は彼氏の方を占いましょう。このタロットカードを一枚お引きなって下さい」
「あ~はいはい」
 もうさっさと終わらせて帰ろう。俺は無造作に一番上のカードを捲り取った。
 引いたカードには“ラッキーカード”と書かれていた。
 しかもこれ手書きじゃねぇか。赤マジックが滲んで文字が擦れてやがる。いい加減さが滲み出ている字体だ。
「おお! 出たっ! ラッキーカード!」と万歳する占い師。
「おおっ!」と一緒に万歳するチヨコ。

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