小説

『チヨコ 初号機』洗い熊Q(『魔法使いの弟子』)

 チエコが買い物行くって言うと必ず祖師ヶ谷大蔵だ。お前の歳なら渋谷とか表参道とかが普通だろ? 何故に縁もゆかりもない祖師ヶ谷大蔵に拘る?
 もうツッコみ処満載過ぎて脳が酸欠を起す。

 
「ねえ私の靴下片方知らない~? 三毛のやつ」
「ふんふん~鳥の糞~なぜに白いの~」
「……あいこで! ……あいこで!」
「ねえ、誰か私のあんこバー食べた~?!」
 今、俺の自宅には二十人のチエコがいる。普段通りのチエコをやっている。それが二十倍だ。
 一人は全ての靴下を抱え込みながら片方探し。一人は妙な唄を歌いながら雑誌を読み。販売元不明の菓子を探しているのもいる。二人は真っ青になって失神していた。
 ……てっ、あっち向いてホイをやったってか!? というかどうやってジャンケン勝負ついた!?
 もう意外性満載過ぎて、どうせだったら俺も増えていって欲しいと思う。いやもうハリセン持ったツッコみ芸人一人でいい。このチエコ達をツッコみまくってくれ。そうでないとボケを拾い切れん。
「は~いシンちゃん、ご飯だよ~。私は肉じゃが~」
「私はビーフストロガノフ~」
「私は回鍋肉~」
「野菜のブーケとトルティーヤチップス添え~」
「チャビーナらしい?」
「大腸麺線」
 何か疑問符付けてきたのもいるが、二十人のチヨコが別々の料理を出してきやがった。何でこんな時だけ被らない? 国も何もバラバラだ。
「お前達こんなに食い切れる分けないだろ!」
「大丈夫だよ~シンちゃん一人でって訳じゃないんだから。私達も食べるんだから」
 だから心配なんだ。腹八分目と言いながら半分も食えない癖にこいつは大量に作る。
「それにこんなに作って食費も馬鹿にならんだろ!?」
「それも大丈夫。私達、仕事で稼いでいるし~」
「へ、仕事?」
「そうだよ。何人か一緒に仕事に出ているじゃん、私達」
「そういえば朝に何人かいなくなる……て一緒に仕事行くって? まとまって行ってるのか!?」
「そうだよ、何人か一緒に」
「朝って大家さんいないか外に? 玄関掃除している」
「いるよ~毎朝挨拶してるよ~、おはようございますて」
 大家さん何とも思わんのか!? 同じ女がぞろぞろ出て行っていて!? 可笑しな光景だろハモって挨拶かますチヨコ達は!

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