小説

『チヨコ 初号機』洗い熊Q(『魔法使いの弟子』)

 次の朝。またけたたましい呼び鈴。痛い体を引きずって玄関を開ける。
「は~いシンちゃん。おは~」
 ウソ……。また一人チヨコが増えた。

 睨み合う三人のチヨコ。今度は何を言い合う。
「私が一番シンちゃんを愛しているんだって!」
「私の方が一番だって!」
「私こそ!!」
 女性三人のそんな言い合いなど羨ましい限りと思われるが、三人とも同じ女性だぞ、同等トンデモ女子だぞ。
 しかしこの状況。やはりあの女占い師の仕業、力なのか!? 胡散臭さ満載で本物の魔法を持ってるてか!? どうするんだよ、これから。
 今更ながら自分の言い間違いを後悔する。何で増えてってたらなんて言うか。という事はこれからも日毎増え続けるのか? チヨコが!?
「……あいこで! ……あいこで!」
「ええい! それやめ~い!」

 何か対策がある筈もない。色々考えた所で何もならない。ただ時間だけが過ぎて次の日を迎える。
 また一人チヨコが来るかと憂鬱な気分で待ち構えていたが、結局その日は誰も尋ねて来なかった。
 不思議に感じながら次の日も迎えるがチヨコは来なかった。
 あれ三人で終わりなのか? と安堵の思いをしたが、チヨコ三号に来たメールでそれは打ち砕かれた。
「四、五、六、七号は明日一緒に来るって連絡してきたよ。何か必要ものあるかって」
 四人まとめて来るってか!? 一日一人ずつ増えるんじゃないんか!? 何だそのふっわふわした感じで増えるのは。本人同様のいい加減さ。
「あっ、十一号は祖師ヶ谷大蔵で買い物してから来るって。何か買ってきて貰う?」
 て、間の号のチエコが来る事も確定かい。
 というか何故に祖師ヶ谷大蔵? いや確かにいい街だよ祖師ヶ谷大蔵。活気ある商店街だよ祖師ヶ谷大蔵。

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