小説

『チヨコ 初号機』洗い熊Q(『魔法使いの弟子』)

 電話越しに聞こえたチヨコの話に納得した? 時偶に人が気付かん道理を言い当てるからチヨコは侮れん。
「――それじゃあ何人までにします? 人数指定してくれないと困りますんで」
「えっ! ウンな細かいんかい!? お、お前ら今何人なんだ!?」と慌ててチヨコに聞き返す。
「え? え? 確か三百人は越えている筈だけど……ねぇ? 私達は今何人だけっ?」と他のチヨコに聞くチヨコ。知らないんかい。
「え~? 最後の方の私達は海外に行ってるから……連絡つかないと分からないよ~」
「マジっか!? どうすりゃいいんだよ!?」
 そう俺が頭を抱え込んだ瞬間だ。部屋の扉が勢いよく開いて誰か入ってきたのは。
「は~い! 今日からお世話になります~チヨコ三一九号で~す!」
「居たっぁ~~~!!」

 
 三一九号から祖師ヶ谷大蔵で時間を潰している三二〇号の存在を聞いて、まだ居たんかい! と思ったが、取り敢えずはチヨコの増殖はそこで止まった。
 増殖は止まったが、彼女の暴走は止まらない。三二〇人のチヨコの。

 
「ねぇリモコンとって、とって。次は私が入れるから~」
「マラカス使う? マラカス。十組持ってきた」
「ういあ~ぎゃああああー! おおぉぉいえぇ~!!」
 狭い室内に十数人のチヨコと押し込まれる。季節外れ過ぎるチヨコグループの忘年会と称したカラオケ大会。激しいノリか、お前幾つなんだ? という往年の歌謡曲ばかり歌う彼女達とは一時は楽しいと感じるが、時間が経つに連れ苦痛にしかならない。
「いぇ~い、私七四点~」
 あ! 誰がカラオケの採点機能を入れやがった! こっそりと俺が切っておいたのに!
「何よ、私だって負けないからね~」
「私だったら八〇点は固いわよ」
「私も~やるやる~」
 そら始まった。競争心に油を注ぐ行為。もうそうなったら止まらない。そこからは全員が同じ曲を代わる代わる歌い出す。

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