小説

『チヨコ 初号機』洗い熊Q(『魔法使いの弟子』)

 誰が歌ったってチヨコはチヨコ。同レベルの歌の壊れたプレイヤー様に永遠のリピート。
 柿の種を食べて咽せた一人が六八点を出した以外、全員が七四点という採点。
 最後は一人だけ六十点台だったチヨコを慰める様に皆で曲を大合唱。聞いているだけで、こちらは目眩を起こす。
 トイレに行くと言ってフラフラとその部屋を抜け出すが。
 隣部屋を覗けばトラウマの様にチヨコ達が大合唱している。その隣の部屋も、そのまた隣の部屋もチヨコ、チヨコのチヨコ達。
 剰え暇を持て余し、椅子にふんぞり返って大口開けて居眠りこいてやがる受付もチヨコ。
 そう、ここはチヨコの店上に併設されたカラオケ店。無論、経営はチヨコ。
 もうここまで来ると悪夢よ醒めてくれと願うより、世界終末を願った方が早いんじゃないかと思う有様だ。

 だが唐突だった。悪夢から醒める日が来たのは。
 それも唐突にチヨコの一人が言って来てから。

「ねぇ、シンちゃん。ちょっと話があるんだけど」
「あ? えっとチヨコ……」
「二十号だと二十号。いい加減に覚えてよね」
 そんな見分けられる奴はおらんわ。居たらお前以上の奇人としか言えん。
「でね……私、気になる人が出来てね」
「え?」
「もしかしたら……直ぐに結婚しちゃうかもの人なんだけど……」
「え、え?」
「あ~私も、私も~」と他のチヨコも言ってきた。
「私、仕事先で告白してくれた人が……」
「取引先の人がね、今度一緒にどっか行こうって……」
「アラブの石油王って人が……」
 一人のチヨコが言い出すと他のチヨコ達もゾロゾロと言ってきた。何だ、何なんだ!? この急展開は!?
「ゴメンね。シンちゃん事は大好きなままだけど、私達全員とは結婚出来ないもんね。仕事はちゃんと続けるからね。取り敢えずここは出て行くから~」
 そう言ってはチヨコ達が続々とマンションを出て行った。

 気付けばあっという間にチヨコ達が居なくなった。ただ一人マンションに残される俺。
 良かったじゃないか。これで大量のチヨコに悩まされなくて。
 そう良い方向へと考えたが。

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