小説

『チヨコ 初号機』洗い熊Q(『魔法使いの弟子』)

「いくよ! 最初がグー! ジャンケン……」
 どうせ次はチョキだろ?
 チヨコ自身は気付いていないが、グーチョキパーの順で出してくる。最初はグーと言ったら次は決まってる。
「あいこでしょ! あいこでしょ!」
 二人とも同じルーチン。勝負が付く筈もない。よしんば決まったとしても次はあっち向いてホイをやるんだろ?
 チヨコは負けず嫌いだ。ジャンケンで負けたら次はと続ける。
 絶対に負けたくないから“あっち向いて~~”と言う側になると相手が先に動くまで語尾をずっと伸ばし。向く方だと相手の指先が先に動くまでじっと睨み続ける、しかも何故か息を止めて。
 どっちにしろ相手が先に動かなかったら真っ青になって失神してしまうのだが。
「……あいこで! ……あいこで!」
「ええい、いい加減にしろ!」と俺は二人を止めた。
「だってどっちが本物か決めないと気持ち悪いしょ~?」
「それはどうでもいいが……そうだな、ちょっと二人とも服を脱いでみろ」
「えっ、何で!?」
「いやもしかしたら、体のどっかが違ってるかも知れないじゃないか。真っ裸なってみな」
「いやなんで……ちょっと、あなたらか脱ぎなさいよ」と何故か胸を押さえ隠しながら相手のチヨコを見合うチヨコ。
「え!? 私は昨晩、散々見せたんだから! あなたの方から脱ぎなさいよ」と同じポーズで言い返すチヨコ。
「……いや、やっぱいい。脱がなくて」と俺は止めさせた。
 よく考えたら見慣れているチヨコ。女性二人が目の前で裸になったらどんなもんかという悲しい男の願望と性が出てしまった。我ながら馬鹿らしい。
「脱がなくていいの!?」と二人のチヨコはハモって言った。
 脱ぎたかったんかい!

 その日は二人のチヨコの言い合いに翻弄され、何故に二人に増えたかなど考慮する余裕が全くなかった。結局二人の間で最初にいたチヨコが一号、次が二号という事で決着し、そのまま疲れ切って三人で寝てしまう。
 女性二人に囲まれて寝るという状況にちょっと男として興奮したが、チヨコが人一倍寝相の悪かったのを忘れ、被害が通常の三倍になっただけだった。

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