女占い師はワンタッチかと思うほどの速度でテントを畳むと、俺達を置き去りにあっという間に走り去ってしまった。
……アフターって何? 代金はいいのか?
――そう、ここらか始まった。暴走の日々が。
そんな珍事があった次の日の早朝。
けたたましい自宅の呼び鈴の音で俺は起こされた。
ピンポ~ン。ピピピピンポ~ン。
誰だ呼び鈴でカッコウを鳴らすのは。
昨晩は占いの結果に有頂天になったチヨコに居酒屋の梯子に付き合わされて二日酔い気味だっていうのに。
眠い目を擦りながら俺は玄関の扉を開けた。
「おっは~シンちゃん。来たよ~」
尋ねてきたのはチヨコだった。
「は?」と俺は目を疑った。どう見ても玄関にいるのはチヨコその者だ。
「……何、シンちゃん。誰か来たの~?」と寝室から目を擦りながらチヨコが出てきた。
俺は二人のチヨコを見比べながら呆気に取られた。
「……え? 私?」
「おっは~、私」
チヨコが二人になった。
目の前に座る、やや膨れっ面のチヨコが二人。これは幻か悪夢の中か。二人を触る感覚が本物だと分かる限り、これは紛れもない現実だ。
「私が本物だからね!」
「私だって本物だからね!」
先程からそう言い合っている。どちらが本物という事より、二人になったという事が問題なんだ、俺にとっては。
「じゃあジャンケンで決めようか!?」と片方のチヨコが言った。
「いいね、そうしようじゃない!」
一緒に寝ていたチヨコは寝間着姿だったから区別が付けられたのに、着替えたら同じ格好をして来やがった。もう判別つかん。