珍しく好奇心をくすぐられた。
でも僕はその場から動けなかった。
赤い傘を置いていかなければ、この世界見て回ることはできない。
「その傘、使わないけど気に入ってるから。大事に扱ってね?」
今朝の姉の言葉を思い出す。
使わないなら意味がないじゃないか。
それでも僕は姉に逆らえない。
ついでに言うと母にも逆らえない。
僕の世界はその二人に支配されている。
僕は自分の傘を犠牲にすることにした。
赤い傘を拾って、雨の世界にもどる。そして自分の黒い傘を彼にかざす。
「あれ…?」
晴れの世界にならない。
彼の上で黒い傘を左右に振る。変わらない。
もう入り口は閉ざされたのか。一回しか行けないのか。
僕は世界から抜け出すチャンスを無駄にしてしまったのか。
もしかして赤い傘じゃないとだめなのか?
彼の上に赤い傘をかざしてみる。
晴れの世界になった。
…赤い傘じゃないとダメなんだ。
僕は赤い傘を彼が濡れないように置いた。
「おい」
心臓が止まったかと思った。
首を動かすと、久々に動かした古い機械の音がした。
「お前、どこから入ってきた」
少年だった。僕と同じ年くらいの。
「…え、ここから…?」