小説

『置き傘』島田亜実(『笠地蔵』)

地蔵に僕の声が聞こえているのかはわからなかったけど、一か八かの勝負に出た。
「ほら、お前赤い傘好きなんだろ?これやるよ!この傘お前のもんだ!」
ずいっと傘をお地蔵さんの横に押し付ける。
鳥の影がさらに大きくなっていく。
「ちょっと!その傘は!」
地蔵の目がゆっくりと開く。
目があった。
思わず息を飲む。
赤い傘がいつの間にかなくなり、僕は雨に打たれていた。
「あ〜あ…あの傘、元々あのお地蔵さんのものよ…」
姉の声が後ろからして、僕は振り向く。
「…はぁ、よかった」
「話聞いてた?」
「うん。あいつのものなら、返せてよかったじゃん」
「馬鹿ね。本当の力が戻った神様なんて、何するかわからないわよ」
「えっ」
数日経ったある日の朝、僕が玄関を開けると玄関の前の地面が花で埋め尽くされていた。
足元に紙切れが落ちていることに気づく。
開くと少し汚い字で文字が書かれていた。
読もうとすると頭の中で向こうで出会った少年の声で手紙が読まれていく。
「どうだ!驚いただろう!実は俺もあの地蔵がいきなり動き出したから驚かされた。お前らすごいことやったな。あのカラスはもうほとんど力を奪われてしまったよ。お前の姉ちゃんとの契約ももう持続できないだろう」
「…あいつカラスだったのか」
「この花な、あの地蔵に頼まれたんだ。あいつ、顔に似合わず可愛いものが好きでなぁ。いつも周りに蝶飛ばしてんだ。」
いきなり手紙が手の中から抜け落ち、空中で蝶の形になって飛んでいく。

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