小説

『置き傘』島田亜実(『笠地蔵』)

その日が来た。
雨の日。姉は友人の家に行くと行って、赤い傘を持って出かけた。
ばれないようについていく。
あの地蔵のところで姉は止まった。
地蔵に赤い傘をさす。
姉は消えた。
赤い傘と僕と地蔵だけが残された。
姉は向こうへ行ったのだ。
勇気を出さなくては。
いつまでも支配されるだけの立場ではだめだ。
地蔵に近づいて赤い傘を拾おうとするとご丁寧に地蔵にくくりつけてあった。
紐をほどいて傘を彼にかざして晴れの世界に行く。
あたりを見渡して、姉の姿を探す。
いた。
僕が少年に連れられて登った山に向かっている。
やはりあの洞窟で会った女性は姉だったのだ。
赤い傘を閉じて手に持つ。
立ち上がり、気合いを入れて足を踏み出す。
慣れたように山を登っていく姉に僕は一生懸命ついていった。
何度か振り返られて焦ったがどうやらばれていないようだ。
洞窟に着いた。姉は躊躇なく入っていく。
心の中で30 秒数えてから中に入る。
この前入った時よりも寒い気がした。
これ、洞窟に入ったのばれてるんじゃないだろうか。
「かわいいお客さん」
「ひっ」
やはりばれていた。

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