小説

『置き傘』島田亜実(『笠地蔵』)

「わかりました。弟には何もしないでください」
「いいわ、こちらに来て」
姉は僕をおろすと、黒いローブの人物に近寄った。
黒いローブの人物は姉に腕を出すように言うと、姉の腕に黒い痣のようなものをつけた。
契約のようなものだろう。
目の前がゆっくりと暗くなっていく。
真っ暗になり、僕はゆっくりと目を開けた。
「知っていた?お姉さんがあなたの罪を肩代わりしていたこと」
「今、知りました。姉は今、どのくらい力を持っているんですか」
「さぁ?気配を消すぐらいはできるんじゃない?この前の時はお姉さんが来ているってあなた気づかなかったでしょう?…まぁ、まだ道具を使わないと世界は渡れないみたいだけど」
「…僕にはその力がどのくらい凄くて危険なものなのかわかりません。でも姉がいつも通り生活しているということは、人間の世界ではあまり支障はないということですよね。姉は僕と一緒に帰ります。もう二度とここに来ることはないです」
奥から笑い声が聞こえて来る。
「この前来たときに言ったじゃない。今度は帰してあげられないかもよって」
「自分で帰れます。あなたの力は借りません」
手に持っている赤い傘をぎゅっと握りしめた。
「あなたは帰れてもお姉ちゃんは帰さないわよ」
「…どうしてですか」
乾いた唇を舐めた。
僕はこいつをねじ伏せなければならないんだ。
こいつと同等、もしくはそれ以上の力で。
「僕は姉に神様を殺した罪を肩代わりしてもらった記憶はありません。でもあの猫は本当に神様だったのでしょうか。その証拠はどこにありますか」
「随分生意気な口をきくのね。圧倒的な力を持っていた、それが神であった証拠よ」

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