小説

『置き傘』島田亜実(『笠地蔵』)

「なんで疑問系なんだよ」
少年は笑いながら近づいてくる。
黒いローブのようなものを身にまとっている。
その中から刃物が出てきて…とか、異様に長い爪でひっかかれたり…
悪い想像をしてしまう。
「あ、怪しくないよ。完璧に人間の姿だろ?」
「…」
「警戒心が強いんだな。ほら、なんもないよ。」
少年はローブのようなものを広げて中身を見せてくる。
和服を着ていた。危なそうなものは見えない。少し安心する。
「な?」
「…ここ、どこですか」
少年はにかっと笑う。
「その前に、お前どこからどうやって入ってきた。」
こっちの質問には答えないってか。尋問じゃないか。
「…地蔵に傘さしたら…」
少年は地蔵を一瞥する。
「傘?その黒い傘か?」
「いや、赤い傘」
地蔵の横に置いてある赤い傘を指差す。
「赤い傘?どこにあるんだよ。」
少年が笑う。
慌てて振り返った。
…ない。地蔵の横にできるだけ動かないように置いたのに。
「ほんとだよ!ここに置いてたんだ!」
僕の慌てぶりに少年はまた笑う。
「わかったって。赤い傘だろ?」

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