小説

『ウシロアシ』うざとなおこ(『ウサギとカメ』)

ツギクルバナー

「また、やっちゃったよ」
 ウサギは、あんまり速く、はねて、はねたので、ウシロアシがついてきていないのに、ようやく気がついた。あわてると、後ろ足ウシロアシを置いてきぼりにしてしまうのだ。
 心ばかり早足で、頭と心が浮足立った、かけ足になる。
「まだかなぁ」
 ウシロアシを待って、木の幹に寄っかかると、いつの間にか遠い目で、記憶をたぐりよせている。ウサギは、カメとかけっこしたことを、思い出していた。

 あの有名なかけっこの日、ウサギの心は、うきうきと、真っしぐらに走っていた。
 カメはまだ追いついて来ない。ウサギは、ふうっ、とついしゃがみ込み、ふかふかのやわらかいきのこをマクラにして、ぐっすりこん、ことり、とそのままスヤスヤ、深い眠りの森に落ちていった。
 ウサギは前の日、カメとかけっこが終わったら、ウサノサンがおいしい草原で、お散歩ピクニックしよう。と言ってくれたから、あんまりうれしくって、胸がきゅんきゅんして眠れやしなかったのだ。
(勝たなきゃ!)
   *   *    *
 かけっこの前の日。力を蓄えるため、頭と手足をひっこめ、岩のふりしてお昼寝をしていたカメの耳に、ウサギがウサノサンと話しているのが聞こえきた。カメは、いつも優しく声を掛けてくれるウサノサンに、ほのかな憧れを背中のこうらにひっそりと温めていた。
 夕方、メラメラとジェラシーに燃えたカメは脱兎のごとくひらめいた!食べると眠くなるラビットレタスを、山頂ゴール下の岩陰に植えた。さらに、匂いを嗅ぐとスヤスヤ、グーの、ネムリキノコの生えた道に行くよう、道しるべの方向を変えたりした。
 ウサギは、ネムリキノコにまんまと引っかかり、スヤスヤ深い眠りについてしまった。
 それだけじゃなかった。カメは、ジェラシーと野望でこしらえた、仕掛けの早さがバネになり、突然、俊足回転の四つ足になっていた!タタタタタッ!目覚めた野望は、ネムリキノコみたいにオドロキの早わざだ!

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