小説

『置き傘』島田亜実(『笠地蔵』)

「私はもうずっとこっちの世界にいることになると思う。お母さんとかちゃんと話しておいてね」
「ふざけんな!」
僕は振り向いて地蔵を強くゆさぶった。
「帰らせろよ!なんだよ一人だけって!」
「ちょっと真吾」
姉の声は僕には聞こえていなかった。
「お前だって神様だろ!できるだろ!」
山から黒い大きな鳥が飛び立ち、こちらに向かって飛んでくる。
姉が焦り始める。
「真吾!もういいから行きなさい!」
「お前、仮にも神様の端くれだろ?困ってるやつ助けろよ!帰らせろよ!」
上空に黒い大きな鳥の影がある。
「だから、お姉ちゃんは帰さないって言ったじゃない。」
ぞっとする声が聞こえて来る。
黒い大きな鳥が下降を始める。
姉はその鳥を見ながら落ち着いた声で言った。
「…真吾。今すぐ帰りなさい」
「嫌だ!」
僕は姉に初めて大声で反抗した。
「…よくわかんないけど、神様ってもっとすごいんだと思ってた。でも違うじゃないか!僕に殺されるくらいの存在が世界なんて支配していいのかよ!そんな存在にもなれないぐらいのやつが何僕の世界変えようとしちゃってんの?僕の世界は僕が変えるんだ」
下降してくる鳥の影が大きくなっていく。
「姉ちゃんだっていつか僕がぶっ潰してやるんだ!」
「…ちょっと!…」
姉が僕を止めようとするが振り払った。

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