立ち上がって歩こうとした時、姉の前に黒いローブを頭まで羽織った人が現れた。
姉は動かず、声も出さなかった。
黒いローブの人物は姉に告げた。
「その猫ちゃんねぇ、川を長い間守っていた神様なのよ。…神様を殺すっていうのは人間を殺すよりも重い罪なの。背中にいる弟さん、私に預けてもらえないかしら」
「知らない人にはついて行くなと言われています」
姉は強く言い放った。
「弟さんにはいずれ大きな災いが訪れるわ。確実に命を落とすような。私に預ければ守ってあげられるわよ」
「…」
幼い姉は随分悩んでいるようだった。
僕は同じような決断を迫られた時、どう答えることができるのだろう。
「…私じゃだめですか」
「身代わりになるということかしら」
僕は待ってと言おうとしたが、声が出なかった。記録を見せられているだけのようで、過去に戻ったというわけではないようだ。
「それはあなたが思っているよりも厳しいことよ。自分が犯したわけでもない罪に一生悩まされる」
「大丈夫です。弟ではなくて私が殺したということにしてください」
姉の決心は揺るがなかった。
僕は姉のために自分を犠牲にしたことがあっただろうか。
「…いいわ。あなたは頭も良さそうだし、何より弟同様、美しい。雨の日には私のところに来なさい。来るたびにあなたに力をあげるわ。それが罰」
「…」
「あなたはいずれ、人間を超えた力を持つことになる。支配する側の存在になるの。大切な人たちがどんどん死んでいくのにあなたは死ねない。幾度となく誰かが死ぬ悲しみを味わうこと、それが罰」