小説

『つんデレラ』笹本佳史(『シンデレラ』)

私は知らぬ間に幼いころあんなにママから止められていた親指の爪を噛んでいた。
その時だった。ひとりの老いた召使が近寄ってきてネエ様をなだめはじめた。
老いた召使はどもりながら言う。
「お、お、お嬢様、わ、我々召使はこの城に仕えて四半世紀以上になります、その間先代のご主人様はもとより今のご主人様からの無理難題も多く申し付けられました。が、わ、我々はそれに反抗することなく、いえ、これが我々の生きる路であると充実感さえ感じながら仕えてまいりました。そ、それは、我が主を心から愛していたからでございます。し、し、しかし、今のお嬢様の行為には、」
と一世一代の熱弁を遮り、ネエ様はその召使を掴みあげ、そのまま力任せに投げ飛ばした。彼はかるく七メートルほど宙を舞い大理石の床に鈍い音を立てながら落ちた。「わっ」っと周囲から悲鳴が上がる。ネエ様はもう自制のきかないライフルをもった機関坊。
(まずいな。これはまずいことになった。)
私はただただ標識のように棒立ちであった。
「ふーふー」荒息アンド涎まみれのネエ様はゆっくりとシンデレラに近寄り彼女を見下げるように立ちはだかった。シンデレラに漆黒の影が不気味に落ちる。そしてネエ様は彼女の顔面をめがけ力任せに蹴りあげた。生っぽい音がした。シンデレラの前歯のひとつが私の足元に滑り転がってくる。私は思わず声にならない悲鳴をあげる。しかしそんなことには意も介さずネエ様は彼女の美しい顔面をさらに何回も殴打し続けた。
(や、やばくねぇ、ハイパーやばくねぇ)
数人の召使が止めに入ったが巨漢のネエ様の力は相当なもので、しばらくの間シンデレラはなすがままに馬乗りなったネエ様から殴り続けられる結果となった。
私は恐怖のあまり逃げ出し自分の部屋で爪を噛みながら震えていた。

その後どうなったかは分からない。
しばらくの間シンデレラは姿をみせなかった。
 

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