小説

『つんデレラ』笹本佳史(『シンデレラ』)

「なんでこんなに汚れてるの!」
私は思わずありったけの大声をだし
「ここがまだ汚れてるでしょ!」
と床に唾をはいた。シンデレラは一度だけ私のほうを見てから、床を拭き続けた。
召使達は遠巻きに私を見ている。怯えた表情をしているが瞳の奥には私に対する哀れみの光が見える。

私はこの現状から逃れるように城のテラスに出て満月を眺めながら大きなため息をついた。
こんなはずじゃなかった。
昔はもっと素直で優しくて、無邪気で、明るくて、人をいじめるなんて思ってもみなかった。
私達姉妹は小さな屋敷に住んでいつも笑って過ごしていた。ペットの犬のサマンサが死んだ時だって亡骸を抱きしめながら一晩中泣いていたの、でもママがこの城に嫁いで来てから、私達は変わってしまった。
満月が雲に隠れ私を取巻く周辺がほのかに黒ずんでゆくのがわかった。
初めてシンデレラに会った時の衝撃は今も忘れられない。
今までの自分達って結構イケテルと思ってた。正直一般ピーポーより可愛くて愛嬌もそこそこあったわ。品のいい貴族育ち、女子力偏差値かなり高め。という自負はあったの。
でもシンデレラを前にした時、衝撃を受けると共にそれまでの自信はあっけなく崩れ去った。封建的な社会の中、何も世間のことを知らずに育った私達の前に圧倒的な美が突如として現れた瞬間、私達心中にあった何かが崩れ落ちた。
(あっ、無理かも。あたいらセレぶってるけど所詮一般人レベルかも。)
私達姉妹は同時にそう感じた。それだけシンデレラはパーフェクトビューティーだった。
 

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