小説

『つんデレラ』笹本佳史(『シンデレラ』)

ネエ様はその日以来、現実を直視することをさけるように一日に八度いえ九度、食事を取り続け、週三で通っていたフィットネスクラブをやめた。また私はシンデレラをいたぶることで自己のアイデンティティを辛うじて保つようになった。たかが自分より可愛い人物が現れたぐらいで大げさだと人は思うかもしれない、けど私達、女子にとってそれが全てだった。この社会の上流階級女子は美しさのみが評価される。それは今までの生活の中で嫌というほど感じてきたもの。つーかそもそも、可愛い、綺麗、クール、セクシーってことは女の最もプライオリティの高い本能である。もし無人島に流れ着いて私以外の他の生存者がいなくなっても私はモールス信号、あるいは狼煙によってこうメッセージを送ります。
(クロエのバックとダイヤのピアス、マスカラを今すぐください)
と。女子というのは悲しいかなそういう生物なのです。着飾ること可愛く居ることを宿命付けられた哀れな生物。
なので突如として身内となったシンデレラに抱いた青白くも根深いジェラシーのはけ口はそれぞれ(ひとりは食べること、ひとりはいじめること)によって処理された。
私はもう一度大きなため息をついてからテラスにある椅子に腰をかけた。しばらくして満月は厚い雲によって完全に隠れ、自分の指先も見えなくなってしまった。

・・・
ある日のこと。
ネエ様はファストフード店で買い求めさせたLLサイズのフライドポテトを食べていた。
「いまダイエット中なのよ、動物性たんぱく質は避けようと思ってさ、野菜メインの食事にシフトしたのよ。」
二つ目のLLサイズのフライドポテトに手を伸ばすネエ様の二の腕は丸太のように膨れ上がっていた。昔はこうじゃなかった。思わず泣きそうになるのを堪えながら私はネエ様に言う。
 

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