小説

『つんデレラ』笹本佳史(『シンデレラ』)

・・・
ある日のこと。
この国のメーンエベンツである舞踊会が行われる三日前。私とママ、シンデレラがウォーキンクローゼットでその日のためのドレスを吟味していた。七時間半を費やし私とママの衣装はほぼ決った。次はシンデレラの衣装を決める段取りに差し掛かった時。ママが言う。
「次はシンちゃんのドレスだけど、どうだろう、シンちゃんってさぁ、まだ怪我が治ってないじゃない。それについては可哀想。すごく可哀想だと思うわママ。シンちゃんはさぁ、その怪我が治ってからのほうがいいと思うの。どうだろう?そう思わない?ママはシンちゃんのことを考えるとそう思うの。舞踊会に出させてあげたい!ママすごくシンちゃんにはそうであってほしい!でも、周りの貴族たちはさぁ、なんていうかなぁ、ちょっと驚いちゃうっていうか、なんていうかなぁ気を遣っちゃうんじゃないの。痣とか舞踊会にはミスマッチっていうか。なんか痣って引くって言うか違うって言うか、ううん、これはシンちゃんの為を思っての私からの提案なのよ。シンちゃんはすごくいい子。ママは十分わかってるわよ。でも他のみんなはシンちゃんの良い所まだ知らないしね。」
ママは私達姉妹の血を引く者。大人な分だけ私達とは違い巧妙かつ間接的にいじめる。ママは最初からシンデレラを舞踊会に連れて行く気なんてなかった。シンデレラは一見何事もないような態度をしているが、そんなママの発言にひどく落胆しているのがわかる。
「そうだ!シンちゃん、怪我が治ったらさぁ、街に降りてさぁ、シンちゃんの好きなもの買ってあげるわよ、快気祝いっていうの、何がいい?ドレス?バック?アクセサリー?」
シンデレラはうつむいたままであったが、しばらくして小声で言う。
「・・フロントトゥース・・」
一瞬の沈黙が流れた後にママは慌てながら応える。
 

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