小説

『つんデレラ』笹本佳史(『シンデレラ』)

シンデレラは氷のような瞳で我々を見ていた。
「なんなの、このガキ!マジありえないんですけど!」
ネエ様の怒涛がだだっ広い食堂にこだまし、それからネエ様はフライドポテトを鷲づかみしてシンデレラにおもいっきり投げつけた。
彼女は床に倒れ私達を今度は潤んだ瞳で見上げる。かなりうるんでる。
(何なのこの子、フライドポテトを投げられるってことは、そりゃあ、、、びっくりするわよ。でも床に両手をついて潤んだ表情でこちらを見るほどのことなの、フライドポテトって鉄で出来てないし、ポテトよ、野菜よ、柔らかな素材よ。床に倒れるほどの攻撃力ないし!)
と私は思った。
(ダイエットについての講釈も今必要ない、全然必要ない。どういうつもり!ネエ様をただ単に馬鹿にしたいだけなんだわ!)
鋭利な感情が沸き起こる。その時だった。
私は思わず横たわる美しき女の顔面を力任せに蹴り飛ばしたいという衝動に駆られた。そして無意識に反動をつけるため片足を後ろに大きく引いた。しかし片足の位置エネルギー最高到達点あたりで躊躇してしまった。そう。躊躇したのだ。そして静かに脚をおろした。
(これをやったら、、、なんつーか人間としてお終いかも。)
その躊躇は底知れぬ苦々しい感情の荒野に不意に建造された一枚の長く高いコンクリート製の関所のような倫理の壁だった。
その日を境に私はシンデレラをいじめるテンションが少し衰退してくのがわかった。大げさに言ってしまうと、顔面を蹴ってやろうと思った瞬間に人間として尊厳のようなものを初めて意識したからかもしれない。また私ですらネエ様には強く物申せないのにシンデレラはすんなりと言ってのけた。私の中でシンデレラを見る目がすこし変わったのかもしれない。

しかし私のそんなささやかな心境の変化とは相反し、その日以来ネエ様はシンデレラをいじめるようになった。
 

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