小説

『つんデレラ』笹本佳史(『シンデレラ』)

「えっ、ふろんとーす、えーと、あーあの、あの、ふろんね。はいはいはいはい。あのフロンね。はいはいはい。えーと、確か隣国の若手新進気鋭のデザイナーズブランドだよね、ちがったかな、でも聞いたことはあるわ。はいはい、あのブランドよね、」
ママは明らかに狼狽している。そんなブランド知らないとは言えない、ママはそれほど見栄っ張り。
「ママ、それなら私も聞いたことがありますわ。こんど詳しく調べておきます。」
と私が思わず助け舟をだす。
「あら、シンちゃん良かったわね。お姉様に感謝ね。でもシンちゃんはやっぱり若い感覚をもってるわね、トレンドにビーン感。ところでそれってバック?アクセサリー?」
ママはシンデレラの顔を覗き込みながら聞く。彼女はうつむいたまましばらく答えない。が、短い沈黙の後、口を開く。
「ちげーよ、ブランドとかじゃねーし。」
私とママは同時に口をそろえ「じゃ何?」と聞きなおす。
「前歯だよ」

・・・
ある日のこと。
この国のメーンエベンツである舞踊会が行われる前日。シンデレラと私は近所に住む親せきの屋敷にいた。「あら、シンちゃんお久しぶりね」とか「だいぶ怪我よくなったんじゃないの」とか親戚の叔母さまが熱心に話している。私はその隙を盗み下駄箱からガラスの靴を抜き取りあらかじめ持ってきた紙袋につめる。
「シンデレラ、あまり長居するのもあれだし、今日はおいとましましょう。」
「はい。姉さま」
私達は屋敷を出ると同時に小走りで駆けだした。次に向かったところは城下町の「ドレスリース110番」という店であった。
 

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