小説

『魂の実る大樹』洗い熊Q(『煙草と悪魔』)

 薄曇りの夕方の帰り道だった。
 落陽の色が雲から薄らいで道はやや闇掛かりを得てか、色彩が抜けてのファンシーな映り込みだ。

 見回りの小学校の先生の見送りを過ぎてから、啓太の友人の一人が自身のスマホを見せびらかした。

「先週から使ってんだ。今度のはトリプルカメラで夜景だって綺麗に撮れるんだぜ」

 スマホのカメラを周囲の人間に向けながら語っている、友達の一人である佐久間君。クラスの中で一番の流行を先取りする子だ。
 彼の両親の思想なんだろう。無駄な出費が多い家族。

「ドコのメーカーなの? キャリアは変わってないの?」と別の友達が訊いた。
「変わってないよ。これまだ普通に流通してないんだ。クラウドファンディングで手に入れたんだぜ。父さんが」

 佐久間君を中心に数人の友達が囲んでいた。手にある最新のスマホを覗きこみながら彼の説明に聞き入っている。
 その輪に入らず、外側からじっと見ていた。
 そんな物に興味は無いと。我慢気味の表情で、俯き加減の啓太だ。

「啓太はまだ持ってないの、スマホ?」
「……まだ持ってない」

 友達に囲まれながら訪ねて来た佐久間君に即答する啓太。
 そんな事いちいち聞くな。内心はそう答えていた。
 だが彼に悪気がないも啓太は分かっている。どちらかと言えば心配しているんだ。不憫に思われている。
 そう思われるのも癪に障るが。

「啓太も携帯電話ぐらいは持った方がいいって。親、買ってくれないの?」
「うん……まあ」
「今は普通だって、携帯持つくらい。クラスで持ってないの啓太だけだよ。今度おねだりしなよ。な?」
「……うん。頼んでみるよ」

 あんな高機能ものなんて、どうせ使いこなせないに決まってる。同世代から見てもそう思う。
 小学生が使うって言ったらゲームか親との連絡ぐらい。どうせそうなってしまうんだ。
 持っていてもしょうがない。

 でも正直。
 内心は欲しい。
 ああいうのを持つのがステータスだと思わないが、欲しがるのが普通なのが男の子だ。

 まだ自慢げに歩きながら語っている佐久間君の背中を見ながら、引け目を覚えつつ啓太の足取りは重くなった。

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