小説

『魂の実る大樹』洗い熊Q(『煙草と悪魔』)

 一笑い終えて、座りまた酒を飲み始めるオジさん達。そしてバーコードオジさんがポンッと膝を叩いて語りだした。

「だが今や俺達の理想通りの展開。それは何よりコンピューターの発展が大成功だったからだ」
「それには俺も驚いたねぇ。初めは軍事目的の発明だけに、それが世の中に流行るとは思わなかったからな」
「ああ、そうだ。あの人間を誑し込んだ奴の手柄だよ。パソコンと銘打って一般的に普及させやがった。えっと……誰だっけ、その人間……何か面白いの作ったんだよな?」
「窓だよ窓~。そいつは色んな窓を一杯作ったんだ~」
 そう踊りながら言ったのはネクタイオジさんだ。
「そうだっけ? そうだったかな……」
「いや、実際に俺達の目的に沿って出来上がったのは違う物だろう。まあ、そのパソコンの普及と相まってだが……」

 そう語りだしたのは作業着オジさんだった。腕組みしながらしみじみと言っている。
「インターネットだろ。俺達の理想郷の枠組みと成ってくれたのは」
「そうだ、そうだ。それは間違いない」と他のオジさん達も納得した。
「あれで世界中の誰にでも思考を丸投げできるようになった。何も考えなくて良い。まあ気分的にいい意見に乗っかるだけで、誰もが着いてきている錯覚が出来てしまう」
「世論に身お任せ~だもんな。自分の思考なんて有りやしない」

 そこでオジさん達が一斉にニヤリと笑った。薄気味悪くも見える顔だ。

「……人が思考を止める。核が弛んで、大事なもんがフラフラと浮かんで来てやがる」
 そう嘲笑しながらバーコードオジさんが言った。

「……ああ、自分自身を見失った人間ほど浮かび上がり易くなる。魂がな」
 合わせ笑い作業着オジさんも頷きながら言った。

「……俺達の誘惑にも乗りやすくなるものな。そうしなくたって勝手にポコポコ自殺しやがる。楽でしょうがないな」
 堪えきれない笑いを抑えながら、帆前掛けオジさんは言っていた。

「魂獲り放題~。入れ食い状態で私達には天国~」
 そう小躍りしながらネクタイオジさんは言う。その言葉に他のオジさん達はどっと爆笑した。

「天国? 天国だって? 俺達に天国ってなァ」
「あははは……普通は笑えない冗談だけどなぁ。まあ確かに。今の世界は俺達にとっては天国だァ」
 そうしてオジさん達はまた笑い合った。

 
 啓太はもう笑えなかった。
 寄り添って言い合っていたオジさん達の表情に背筋が凍り付く思いだ。
 魂を……獲るって……この人達は一体、何をしている人達なんだ?

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