小説

『魂の実る大樹』洗い熊Q(『煙草と悪魔』)

「ああ、何もかも決めるのはAI。人間は生きているだけでOK。ただただ魂の入れ物として」
「入れ物っていうか実だな。魂が実る木。人間社会ってのは魂の実のなる大樹って事だ」
「しかも思考を止めた人間の魂は何の苦も無く獲れる。狩り放題、採り放題」
「正に魂栽培農場だ! もう人間って単語自体が要らない俺達の夢の世界だ!」

 歓びの余りオジさん達は一斉に立ち上がった。押さえ切れんと踊り始める。

「呑めや歌えや踊ろなそんそん~。この世は実りの歓びばかり~。呑めや笑えや楽しまそんそん~」

 永遠と鍋を中心に踊り続けるオジさん達だった。

 
 啓太は震える。怯えて動けなくなっていた。このオジさん達は一体何なんだと。
 いや内心、その正体はと思っていた。考えたくなかった。実在するなんて思っていない。だから正直に怖かった。
 この場から逃げよう。そう感じて反射的に覗いていた顔を離した。だがその時、啓太は気付いてしまった。

 踊り続けるオジさん達。それを背景に照らされ延び見える人影。
 それが人の形を為ていない。
 角もあって、鋭角な翼が背中にあり、鋭利な尻尾も生えていた。
 ――悪魔だ。影は悪魔その者の形を成していた。

 思わず驚いた、啓太は。そして後ずさった。その拍子に軽く椅子に足をぶつける。
 ガタリと音が鳴った。その瞬間、パソコンの中にいた悪魔達が一斉に啓太の方を睨んだ。

「――誰だぁ!!」

 啓太は無我夢中でその部屋から走って逃げ出していた。

 

 もう外には雀の囀りが聞こえ始めた。東雲の空には赤味が見えてきている。
 啓太の父親が不意の目覚めに見舞われていた。一度ダイニングへ降りようかと起きて寝室から出た時、閉めたはずの書斎の扉が開けれたままなのに気付いた。

 まさかな、と思いつつも父親は気になって啓太の部屋を覗いてみた。書斎に入りそうな家族は啓太しか思い付かなかったからだ。

 暗い部屋の中、ベットの上に掛け蒲団で作ったかまくら出来上がっているのが見えた。
 啓太が蒲団に包まって起きていたのだ。
 怯えている、そう見えた。覗き見た時は叱ろうとも思っていた父親は、それを見て何かあったんだろうと察した。
 父親は宥める様にして、啓太と供にリビングへと降りる。
 結局、啓太は一晩中起きていた。
 父親に書斎に入った事が隠し立て出来ないと悟って誤魔化さず、昨晩の出来事を正直に全部話す。
 父親は啓太の荒唐無稽な話を馬鹿にせず真剣に聞いてくれていた。
 話を終えると父親は、怖がる啓太を連れ添って書斎へ入った。

 
「……何もいない。大丈夫」

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