小説

『魂の実る大樹』洗い熊Q(『煙草と悪魔』)

 帆前掛けオジさんの話の行方に鉢巻オジさん、微動だにせず硬直している。

「フェイク? フェイクってなんだい」
「いやコイツ、わざとスナックのマッチを隠し持ったり、アケミちゃんからの店への誘いのメールを消さずに残したりと色々と小細工を為てやがってよ」
「えっ? なに、本命は別にいるってことかい」
「隣の奥さん。ちょい歳下の奥さん。それとちょっと良い感じになって……」
「ああ、何か相談されて何かそうなって感じか! うわっ、ヤバい奴だ!」
「で、ある日にな、自分の奥さんから“このメールは何?”て訊かれた訳よ。ああ、アケミちゃんからのメールの事だと思った訳よ、この人は」
「今間で仕込んできたのが役に立ったと思った訳だ」
「と・こ・ろ・がだ。奥さんが見せたメールは、なんと隣の奥さんからのメール! 消したと思ったメール!」
「でたっ! 世界崩壊だ! あっという間に目の前真っ暗!」
「しかもだ。その隣の奥さんと自分の奥さん。何か裏で繋がっていたなんて話も……」
「うわっ、最も怖い世界! 女の恐さを思い知らさせる瞬間だ! うわっ、こえ~こえ~!」

 その話で盛り上がる最中、固まっていたネクタイ鉢巻オジさん。急に泣き崩れて、その場でうつぶしてしまった。

「うわっー、その話はやめてぇ~! ゴメンよ、ゴメンよ~! もう何もかも私が悪かったって事で~許して~かあちゃ~ん!」
「あ、あ、悪かった、悪かったよ~。もうすっかり立ち直ってるかと思ってよ~。正かそんなに引きずっているとは……」
「あ~よしよし、もう呑んで忘れような? な? 記憶なくなるまで呑んでさ、な? もう生まれ変わっちまおうよ。今晩でお前は生まれ変わろうな。俺達も付き合うからよぉ」

 泣き崩れていた鉢巻オジさんを他のオジさん達は、一升瓶やら皿に盛った捏ねを差し出し慰め始めていた。

 
 その様子を見て啓太は吹き出して笑いそうになった。余りに滑稽なその光景に。小さなオジさん達が寄り添って慰め合っている姿。
 普通の人間が見せているのなら笑うなんて思わないだろうが、こんな場所で。その小ささで。
 目の前で演じられるその喜劇の様な展開に、啓太は笑いを堪えて続きを見守るのだった。

 
「ほれ、今の俺達は笑うしかないだろ? この御時世は」
 ようやくと落ち着いた鉢巻オジさんの背中を叩きながら、バーコードオジさんは飲みかけの酒をぐっと一気飲みして言っていた。

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