小説

『魂の実る大樹』洗い熊Q(『煙草と悪魔』)

 微笑ましい雰囲気など消え去った。笑いを堪えるもない。もう息を呑んで、そして潜め、啓太は怯えながらも見続けた。

 
「……いよいよって感じだな。俺達の計画も最終段階って処だ」

 バーコードオジさんが顎を指で挟み撫でながらニヤニヤして言っていた。
 その言葉に上の空で考えながら帆前掛けオジさんが訊き返していた。

「最終段階って……スマホの普及だったか?」
「それは計画上では準備段階だ。まあ、予想以上の普及振りに驚きはしたがな」

 今度は作業着オジさんが前のめりで驚き混じりに話始めた。

「そうそうそう。あれはビックリしたわ。あんなに一気に世界中に広まるもんかね? 病気みたいな感じだったなぁ」
「あれは宣伝が上手くいったからだ。あの人間の才能のお陰だ」
「ああ、あの人間ね。やたら喋りが上手い奴だ。あの語り口には感動するね、俺でも。何か凄え未来が来たーて思っちまったもん」
「彼奴を引きこんだ俺達の仲間の手柄だ。良く見つけたよ。カリスマって奴だ。俺達の誘惑以上の魔力を持った言葉で世界中を魅了した」
「ああいう人間を引き込めるかが成功の秘訣だね。頭も良くて、よくよく俺達の事も理解して、何より人並み以上の野心を持った奴を」
「今度もそういう奴を見つけなきゃ」
「ああ、カリスマをな」

 そしてオジさん達は密談をするかの様に頭を寄り添って、鍋を中心にして声を潜め気味に話し合う。

「……今度は何を売り込むんだ?」
「……分かってるだろ。今、世界中で話題になっている物だよ」
「……えっ、何、何? 私、知らない」
「……お前なァ……分かるだろ? AIだよ」
「……お、おおぉ!」

 オジさん達が一斉にくっくと薄笑いを始めた。顔は見えないが小刻みに揺れる背中が不気味に見えた。

「……優秀なAIが普及すれば人間は考える手間がなくなる。思考は全部AI任せになるんだ」
「つまりは将来的に人間は思考をしなくなる」

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