小説

『魂の実る大樹』洗い熊Q(『煙草と悪魔』)

「あ~そうだ、そうだよ。ホント、今の御時世は俺達の理想に近づいてる。上手く行き過ぎて逆に怖いくらいだよ」
 そう言って頷き返すのは作業着オジさんだった。そして腕を組みながら、しみじみと話を続ける。

「随分と長い間、俺達は手を変え品を変え頑張ってきた。一時はもう全てを手に入れてやった、何て思えた時もあったが……結局、最後は人の持つ最後の強さって奴に負かされ、逆上せ上がっていたの痛感するばかりだったもんな」
「ああそうだ、人の強さ。人って言うのは思考する者。常に自然と思考するのが彼等であって、それが強さの根源だったんだ」

 作業着オジさんと帆前掛けオジさんがしみじみと頷きながら言っていた。それがそうだと納得しながらオジさん達は鍋に近づき囲み、また語り始める。

「その思考を鈍らせるのに色々と流行らしたもんだな」
「ああ、麻薬や煙草、酒もか。まあそれもビジネスという社会思考の一部として浸透し過ぎちゃったもんなぁ。その中には文化として消化されちまったもんもある」
「酒は私達も踊らされちまってるけどねぇ~」

 そう言って立ち上がるは鉢巻オジさん。身体をくねらせて陽気に踊り始めた。

「呑めや歌えや踊ろなそんそん~。この世は実りの歓びばかり~。呑めや笑えや楽しまそんそん~てかっ」

 鉢巻オジさんの妙な音頭に他のオジさん達はどっと笑った。

「何だぁ、そりゃあ」
「妙な踊りを披露し上がって」
「いいじゃないか、いいじゃないか。ほれ、皆も踊ろうじゃないか」

 一度、見合っていたが、鉢巻オジさんの誘いにそれではと皆が立ち上がって鍋を中心に踊り始めた。

「あっそれ、呑めや歌えや踊ろなそんそん~。この世は実りの歓びばかり~。呑めや笑えや楽しまそんそん~」
 一踊りしてオジさん達はまたどっと笑い合っていた。

 
 見ている分には陽気な雰囲気で面白い。
 だが啓太はオジさん達が言っていた事が気に掛かり表情には笑みが溢れなかった。
 麻薬? 煙草? 人の思考が強さって何だろう? このオジさん達は何をやっているのだろうか。
 そうする事がオジさん達の仕事なのだろうか。喜劇よりも語り部に啓太の興味は移っていた。

 

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