小説

『魂の実る大樹』洗い熊Q(『煙草と悪魔』)

 だが啓太は男性の姿に興味津々になる。足丈の長い黒いスーツ。普段、見慣れない祭服だったからだ。首から提げている銀色のロザリオも印象的だった。

「アレハ、モタナイホウガイイ。デキルナラネ」
 聞きとれない程に発音は悪くない。穏やかな口調は温厚な印象を啓太に持たせた。
「スマホを持っちゃいけないの?」
「ソウ。アレハヒトノタマシイダメニシテシマウ」
「魂をダメに? そんな話、聞いた事ないけど……何でそうなるの?」

 啓太の問い掛けに祭服姿の外人はうんうんと頷きながら、首から提げていたロザリオを外すと啓太に差し出した。

「キニナルノナラ、ジブンデタシカメルトイイ。コレヲモテバワカルヨ」
「分かるよって……持ってるだけでいいの?」
「ソウ。ソシテヨルニキカイノナカヲノゾイテゴラン。ソシタラワカル」
「機械ってスマホ? スマホはお父さんかお母さんしか持ってないから……」
「パソコンデモ、OK」
「パソコンならお父さんのがあるや」
「デモノゾイタトキ、ケシテコエヲダシタライケナイヨ。キヅカレテシマウ。キオツケテネ」
「気づかれる?」

 外人はぎこちない会釈した後、啓太に軽く手を振りながら立ち去ってしまった。
 面妖な人物に唖然として、啓太は去って行く外人を呆然と見送るしかなった。

 

 
 真夜中。この時間まで起きているのは啓太にとって初めてだった。両親が寝静まったの見計らって、こっそりと自分の部屋から出て行く。
 啓太の手にはあのロザリオが握られていた。
 真っ暗の中を進み、ある部屋の扉の前まで。父親の書斎だ。
 音を立てない様にノブを回し、静かに開けた扉脇から部屋を覗きこむ。

 カーテンが開けられたままの窓から仄かに月明かりが差し込んでいた。お陰で書斎の様子が分かる。
 啓太は忍び足で部屋の中央に据え置かれた、父親のパソコンへと近寄って行った。

 あの外人の話を心底信じている訳じゃない。でも気になって眠気が吹き飛んだ。ここまで足を運んだのもそのせいだった。

 机上に置かれる父親のディスクトップパソコン。間近まで寄って見廻した。
 何処から中を見ればいいんだろ?

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