小説

『魂の実る大樹』洗い熊Q(『煙草と悪魔』)

「もうそう表現するかなかんべぇ。お前らだってこんなに上手く行くとは思ってなかったろ?」
「まあ、そうだなぁ。最初にあの計画を聞いた時には正直上手く行くとは思ってなかったな」

 
 一体、何の話をしているんだろう?
 啓太は大体の粗筋で仕事の話をしていると考えた。でも、こんな小さなオジさん達の仕事とは何? 想像してみて思わず含み笑いしていた。

 
「だってそうだろう? 何せ形のないもんだからな。今間で俺達が扱ってきたのは、正に“物”だったんだから」と帆前掛けのオジさんが腕組みしながら言っていた。
「そうだな、正に情報社会。形の無い物に価値を。信頼を。夢を乗せてってね」
「そして掛け替えのない存在に。いや、そう思い込んでいる」
「いやいや。思い込みって言うのは大事だぜ~」

 そう言って仁王立ちするのは作業着のオジさんだ。

「そう思えばそうなる。今は思考が現実化する世界だ。頭の中の妄想がしっかりと結果となり現れた時に、そいつは成功する。この社会でな」
「おっ。急に真面目な事を言い出したよ、この人は」
 と作業着オジさんを他の二人が揶揄しだしていると。
 何処からともなく小走りして来る足音が。音が近づいて来たと思った時には、その主がオジさん達の目の前に現れた。
 滑り込んで来て登場は、赤いネクタイを鉢巻にして、完全に酔っ払い姿のスーツ姿の新たなオジさんだ。

「君たちハッピー!? そしてホッピー!? 私は昔ヒッピー!」

 ビシッと決めポーズの鉢巻オジさん。颯爽と登場にも他のオジさん達はポカンと口を開けて呆然だった。
 暫く冷淡な間が流れた。

「……あれ? 私、スベったかな?」
「……いや十二分に滑ってきたぞ。これでもかってフィギアフリーで最終滑走すって感じで」
「陽気だの~。お前さん相当に呑んでるな。何か良い事でもあったのかい?」とバーコードオジさんが訊いていた。
「いやぁ、そうりゃもう~。こんな景気の良い時代なんて何て有り難い……」
「いやいや空元気なんだよ、コイツの場合は」

 鉢巻オジさんの言葉を遮ったのは帆前掛けオジさんだ。

「コイツ、奥さんにあの子との事がバレちゃってね……」
「あの子? もしかして、あのスナック“門前払い”のアケミちゃんかい? 年甲斐もなく熱を上げていた」
「いやいや、実はあの子はフェイクでね……」

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