四辺を見ている内にパソコンの側面にある梯子上の吸気口の中から、ほんのりと明かりが漏れ出ている事に気が付く。
啓太は押し付ける様に顔を吸気口に近づけて中を覗き見てみた。
幾つもの這わせてあるコードの隙間。緑色の基盤ボートを背景に平坦な金属板の上だ。
まず見えたのはカセットコンロの火に掛けられた土鍋だった。
土鍋の中には真っ白な葱にしなった春菊。よく練られた何かの真ん丸の捏ねがことこと煮込まれていた。 立ち昇る鍋からの湯気を目の前に誰かがいる。
バーコード頭のオジさん。緩めたネクタイにワイシャツ姿で片手に瓶ビール、コップにお酌しながらゴクゴクと一気飲みをしているのだ。
プッハーと満足げな息を吐いて、楽しげにもう一杯とビールを注ぐ。
「いや~今日も働いたわ~。仕事後のこの一杯がもうたまらんね~」
小躍り気味に酌を続けるオジさん。それに誘われるように、新たな二人のオジさんがひょこひょこと近寄って来た。
一人はラクダ色の作業着、一人は帽子を被って紺色の帆前掛けをしている。
「よお~景気が良さそうじゃねぇか。俺達もお邪魔しちゃおうかな~」
「タダじゃ、この特製捏ねの鍋には箸を付けさせる訳にはいかないよ~。これを食べるには許可証が必要なんだなぁ~」
「許可書はコレだろ、コレ」
前掛けオジさんが一升瓶を取り出し見せた。
「お~分かってるね~、ね~」
「ね~」
とオジさん三人、互いに両手人差し指で指し合いふざけ合う。
啓太は思わず身を起こして驚いていた。
それはそうだ。覗いたパソコンの中に小さなオジさん達が鍋を囲んで呑んでいるのだから。
これがあの外人が言っていた事なのか?
だが想像と違い、中にいたのは陽気で小さなオジさん三人。
本当にコレがそうなの? 啓太は続きが気になり覗き見直す。
バーコードオジさんはふらふらと両手を揺らしながら、フラダンスかクラゲの真似かの踊りをしていた。
「いや~しかしたまんないなぁ~。こうも上手くいっている事が自分でも信じられないねぇ。夢かね。奇跡かね。メイクミラクルかね」
「うわっ、古っ!」と他のオジさん二人がツッコんでいた。