小説

『ヘルメット・ガール』益子悦子(『鉢かつぎ姫』(河内の国))

「そうじゃなくて!」
「え?」
「ヘルメット、頭から離れないんだけど。ほら、見て見て」
必死でヘルメットを脱ごうとする姿はまるでパントマイムだ。
「それ、お父さんの?」
「あんた数学とか物理とか得意だよね。だったらこれ何とかして」
「数学と物理とヘルメットとどう関係あんの」
「分かんない。分かんないけど……」
雪人の手が髪に触れたので美音は驚いて顔を上げた。こんなに至近距離で雪人を見たのはいつ振りだろう。小学生の時はチビでやせっぽちだった雪人は、今や美音の身長をはるかに超え恋人同士だったらキスシーンの場面にちがいない。しかし雪人はがっちりと両手でヘルメットをつかみ、左右に動かしたり表面を指でノックしてみた挙げ句「奇妙だ」とだけ言った。
「どうしよう、明日文化祭なのに!」
美音はヘルメットを抱えたまま座り込んでしまった。
「大丈夫だよ」
「え?」
「どうせみんな仮装してるんだ。全然奇妙じゃない」

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