小説

『ヘルメット・ガール』益子悦子(『鉢かつぎ姫』(河内の国))

茜もバンドのメンバーも満足そうだ。
「ありがとう」
涙をこらえて美音はようやく笑顔を見せた。

音楽室はまるでライブハウスのように異様な熱気に包まれていた。
トリを飾るのは美音たちのバンド『スーパーガールズ』。出番が刻一刻と近づくにつれ美音は緊張し、「トイレ行ってくる!」とその場を離れた。

女子トイレに駆け込み、鏡の前で美音はヘルメットを外そうとして止めた。
カッコ悪いはずのヘルメット。でもみんなは応援してくれた。このヘルメットは父の誇り。ふいに美音はポケットから携帯電話を出し「お気に入り」の写真から一枚を選んだ。ギターを奏でるJUNの顔はよく見えないが、その情熱ほとばしる姿からいつも元気をもらっている。と、その時、水洗の流れる音と共に個室のドアが開いた。長い黒髪にサングラス、全身黒いレザーで身を包んだ女性に美音は釘づけになった。
JUNだ。
JUNがすぐ隣で手を洗っている。美音の心臓はバクバクと波打って今にも飛び出しそうなくらいだ。まさかこんな所で憧れの人と二人きりになろうとは。
「あの!」
美音の大声にJUNは振り返った。

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