小説

『ヘルメット・ガール』益子悦子(『鉢かつぎ姫』(河内の国))

翌日学校へ行くと雪人の言うとおりだった。ガールズカフェの店員や人気アニメのキャラクター、お化け屋敷のゾンビに扮した学生たちの中でヘルメット姿の美音はむしろ地味だった。念のためフードをかぶり音楽室に行くとバンドのメンバーが次々と、
「大変大変大変!」
と騒ぎ立てて美音を取り囲んだ。
「やばいよ美音、JUNが来るって!」
フードをかぶった美音の耳にもはっきりと聞こえた。JUNが来る。

母校の軽音楽部の発表をJUNがお忍びで見学するという、まことしやかなウワサはすぐに校内に伝わった。有名人を一目見ようと音楽室に入りきれない観客は廊下にまであふれる有り様。興奮冷めやらぬバンドのメンバーがようやくヘルメットに気づいたので美音は説明した。父が倒れてから寝ても覚めてもヘルメットが体の一部のように、ぴったりと頭から離れないことを。
「いい考えがある」
真っ先に言い出したのは茜である。
「あたしたちもかぶろう、ヘルメット」
「マジで言ってる?」
「でもヘルメットなんか持ってないし」
「防災訓練の時のヘルメット使えば?」
「それな!」
そうと決まれば話は早い。人数分の防災ヘルメットをかき集めバンド全員でヘルメットを着用した。
「これで違和感ないね」

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