小説

『ヘルメット・ガール』益子悦子(『鉢かつぎ姫』(河内の国))

「ノミを聞けば職人の腕が分かる。大事なのは音だ」
ギターにしても同じこと。美しい音色。その音を愛する人に届けたい。美音は無我夢中で演奏した。どうかこの想いがJUNに父に母に届きますように。曲が終わると歓声が沸き上がり、美音は目を見開いた。美音の目には映った。スポットライトに照らされたJUNが拍手をする姿を。次の瞬間、頭が割れるような音と共に美音はステージに頽れた。

美音が目を覚ますと白い空間が広がっていた。ここは天国? ぼんやりする視界に現れた人は神様だろうか。
「……お父さん?」
美音はベッドから飛び起きた。白い空間は学校の保健室だった。窓の外はとっくに暮れている。頭に触れると無い、ヘルメットがどこにも無い。
「しかしまぁ、派手にやったもんだ」
と、父は真っ二つに割れたヘルメットを手に取った。
「雪ちゃんに聞いたよ。お前がこれかぶったまま、演奏中に倒れたってな。こいつのおかげで、それ以上頭が悪くならずにすんで良かったよ」
「もう、お父さんたら!」
「ごめんな、心配かけて。俺ならもう大丈夫だ」
父の手が美音の頭を優しくなでた。父は知っているのだろうか。この真っ二つに割れたヘルメットの経緯を。でも美音にはもう、どうでもいい気がした。父がこうして元気で戻ってきてくれたのだから。

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