小説

『ヘルメット・ガール』益子悦子(『鉢かつぎ姫』(河内の国))

「どうした」
「痛い……」
誰かに頭を殴られたかのような衝撃が、ヘルメットから伝わってくる。
「ほら、つかまって」
雪人の差しのべられた手に、美音は一本の藁をもつかむ思いですがった。
「歩ける?」
「うん」
一歩、また一歩。ゆっくりだけど大丈夫、歩ける。
「昔からそうなんだよ」
「え?」
「のぼせ症」
「何それ」
「つまり自意識過剰なんだよ」
「はぁ?」
美音は雪人の手を振り払った。
「自意識過剰ですみませんでしたね。もう大丈夫だから」
そう言うと美音は音楽室めがけて走った。

音楽室に戻ると熱気はピークに達していた。
「トイレ長すぎ!」
という声で笑いの渦が巻き起こる中、美音はギターのチューニングをしながら客席を見わたした。真っ暗で誰が誰なのか分からない。
「それでは聴いて下さい。オリジナルソング『あの頃より、ずっと』」
茜のMCが終わると美音はギター・ピックの指を天にかざした。イントロを弾きながら父の口癖が頭をよぎる。

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