小説

『ヘルメット・ガール』益子悦子(『鉢かつぎ姫』(河内の国))

何かの間違いだきっと。
お父さんは昔、冗談交じりによく言ってた。
猿も木から落ちる。でも俺は落ちない、と。

病室に着くと父と同じ宮大工の清(せい)さんがヘルメットを膝に座っていた。
「すまねぇな、俺がついていながら」
「お父さんは?」
「一命は……とりとめたけどよ」
清さんはそう言うと肉厚の手で顔を覆った。医者の説明によると、一命はとりとめたものの意識が戻らないらしい。

こんなことってあるのだろうか。宮大工の棟梁として声も体も大きい父。それが今やベッドで植物のように、ただ静かに眠っている。美音は父のヘルメットを抱きしめた。「安全第一」と記されたヘルメット。父は今朝、由緒ある神社の屋根を修理すると意気込んで出ていった。まさか足場のてっぺんから落ち、こんな姿で帰ってくるなんて。
「神さんの祟りじゃあるめぇしよ」
ぽつりと清さんが言った。

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