彼を中心に歩く集団から自然と離れていく。
息を殺して。最初から居なかったんだと。その場に居なかったんだ、僕は。
だいぶ離れて歩く友人達の姿は蜃気楼の様に薄らいで見えた。まるであちら側は別世界。そう思えるからだ。
だが啓太の怨嗟は友人には向けられない。彼の矛先は自分の両親に対してなのだ。
どうしても買ってくれない。幾らお願いしても。
その理由は散々聞かされていた。
啓太の父親はプログラマーだ。仕事柄、電子機器を扱うのは一般水準以上。家に帰れば父親の使う機器が大量にある。
だが使わせてくれない。
パソコンなどを使っても怒られると言う訳ではないが咎められる。
父親は極度の近眼だから。幼い頃から画面を見続けてきた父は、自分の近眼の原因がそれだという思い込みがある。
スマホなど特にそうだ。あんな物を一日中見続けるなど目に悪いと。
最近になって時間を決められてはいるがパソコンの使用は許されるようにはなった。
だがスマホに関しては決して首を縦に振ってはくれない。
啓太は溜息と供に俯く。道路に左右交互に現れる自分の青い靴を見ながら歩いていた。
被っていた帽子の鍔で友人達の姿を隠す。幾ら遠くから彼等を見ていた所でスマホなど手に入らないから。
俯いたまま、また大きな溜息を啓太は吐く。その時だった。彼が背後から声を掛けられたのは。
「ソンナニ、スマホガホシイデスカ?」
背筋が真っ直ぐに張る程に啓太は驚いた。そして思わず立ち止まった。
余り聞き慣れない発音だったのもある。第一、両親や先生以外で大人らしき声に呼び止められるなんてそうそうにない。
恐る恐る振り返って啓太は更に驚く。
背後には自分の三倍もあるかと見える高身長の男性。真っ白な髭面で微笑みかけている。しかも見つめる目は身長差があっても蒼い瞳だと分かった。
「キミハソンナニ、スマホガホシイノカイ?」
「えっ……そういうわけじゃないですけど……」
男性が聞き直してきて啓太は思わず答え返していた。何処かの異国の人だというのは啓太にも流石に分かる。
しまったと思ったのは見ず知らずの人に声を掛けられて答えてしまった事だ。